似て非なる
君とオレは似てると思った
俺とあなたは同じだと思っていた
空は高く高く澄んでいて、たなびく雲の白さをよりいっそう際立たせながら気ままに流れていく
小春日和の日差しは温かくて無償の優しさで世界を両腕に抱きながら、今日も今日とて地上に生きる人間を見守っていた
そんな大地の一角、人気の少ない滑り台とぶらんこだけがある公園で綱吉はベンチに座りながらぼんやりとしていた
考えるのは両方の世界の仲間のことと、羽根のこと
超直感のままについて来てしまった綱吉だったが、自分がいるからといって羽根探しが楽になるなどの何かが出来るわけでもなかったので少し一人で落ち着いてみようと思い至り公園に来たのだが
「あ、ツナさん」
「小狼君!どうかしたの?」
「いえ、ちょっと」
姿が見えたのでと駆け寄ってきたそう変わらない歳の少年に綱吉も頬を緩めると腰をずらして座るように促す
小狼と呼ばれた少年は綱吉によく似た色の髪を揺らすと一度頭を下げてから横に座り「すみません」と生真面目に謝ってから何もない公園を見回し苦笑する
「考え事してましたよね」
「あー、うん。でも気にしなくていいよ」
考えるために出て来たことに間違いはないのだが纏まらなかったのも事実
綱吉は阪神共和国の賑やかさが嘘のように殺風景すぎる公園を眺め、謝ってきた小狼に視線をやると「本当に気にしなくていいから」と手を振った
元々家庭教師にも深く考えるなお前はそんな奴じゃないと言われていたのだ、もしかするとこれも深く考えてはダメなことだったのかもしれない
飴色鼈甲の髪を持つ小狼の力になるために来たーーーそれだけは変わり果てることもない本当なのだから
「さくらちゃんの様子はどう?」
「……変わりません。やっぱり羽根がないと駄目みたいで」
「そっか」
小狼の苦悩と焦りを募らせる眼差しはいつか何処かで綱吉が浮かべたもの
膝の上で爪を食い込ませるほどに拳を握り締めた小狼は閑散とした風景を見詰め、感情のひび割れた声を押し出す
「早く………早く見付けないと」
早く見付けないと、さくらが
「小狼君………」
未だ眠る少女の目覚めが何を生むのか知っている綱吉は小狼の背中に手を当ててさする
綱吉が一度だけ触れたさくらの肌は温もりこそあれど魂ーーー心の抜け落ちた器でしかなかった
中身がなければこうなるものなのかと、華奢な体に戦慄した
あのままでは食事も何も出来ないのだから体が衰弱するのも時間の問題で、さくらを大切だと言った小狼が気持ちを先走らせるのも無理はない
けれど綱吉は思うのだ
「そう、なのかな………」
「え?」
「あ、いや、えっと………少しでも早く羽根を取り戻さなくちゃいけないのは分かるんだけど、本当にそうなのかなって」
例えば指輪争奪戦
例えば嵐の守護者戦
「小狼君が焦るのは当たり前だけど、早くって思うのも分かるけど、今の小狼君はさくらちゃんのことばっかりで自分を見なさすぎるよ」
「ツナさん………」
「小狼君がさくらちゃんを大切に想ってるみたいにさくらちゃんも小狼君が大切なはずだから………自分の記憶を取り戻さないからって、無理したら駄目だよ」
小狼の心にいるさくらはきっと悲しむはずだと綱吉は笑う
今日一日一緒に阪神共和国を見て回って、ああ、獄寺君に似ているなと炎の獣を従えた小狼に綱吉は思ったのだ
仲間を、大切な人達を守りたいと戦う理由は綱吉と似ている
でも、その中に必ず自分自身が含まれているのかと言われたら獄寺に似ていた
「なんて、オレらしくもない説教だけど」
「いえ、そんなことありません。父さんがいたらそういったと思います」
「さくらちゃんじゃなくてまさかのお父さんーっ!?」
ベンチから立ち上がって振り向こうとしていた綱吉は小狼の回答にずっこける
小狼は固い表情を崩して頷くと同じように立ち上がり、眩しそうに綱吉を見た
「俺も強くなれますか?」
「へ?」
「俺もあなたみたいに、ツナさんみたいに強くなれますか?」
「オレーっ!?」
見るからに強そうな黒鋼でも相当魔力の高そうなファイでもなく、ダメダメの綱吉に
「オレ強くないしっ!むしろ小狼君の方が肉体的にも精神的にも全然強いって!!」
でなければあんなにすごい巧断が膝を折るわけがない
というかダメツナと呼ばれている自分を目指しても何にもならない
それだけは阻止しなければ!とぶんぶん首を振りながら叫ぶ綱吉に、小狼はこの日一番明るい顔になると「いいえ」と笑った
「ツナさんの方が強いです。俺もそんな風になりたいって思いますから」
「それ絶対どっかで脳内変換ミスってるからーっ!!」
君とオレは似てると思った
俺とあなたは同じだと思っていた
守りたいモノと理由
その先に見据える未来
大切な人達に笑っていてほしい
願う心は似ているだけで、少しだけ違った
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