昼下がりの中で
知りたいという気持ちとからかうような戯れの言葉だったのだと思う
眠り姫が大人しいのは眠っている間だけなのだから
「ツナ君はどうしてわたし達と一緒に来てくれるの?」
とある麗らかな昼下がり、紅茶とドーナツを楽しむにはまさに絶好の日和
チョコレートを塗ったケーキドーナツを頬張っていた綱吉はさくらの唐突な質問に目を瞬く
気のせいだろうか、彼女の大きな眼差しがキラキラと輝いているのは
気のせいだろうか、他の仲間の視線を感じているのは
「なんでって………」
ごくんと口の中に入っていた一口サイズのかけらを飲み込んでから綱吉は手に持っていた残りを皿の上に戻して困った顔をする
「そうしなくちゃいけないと思ったから………」
「どうしてあんなに強いの?」
「(ってあっさりーっ!?)」
なら聞くなといいたくなるくらい、それはもうお見事に話が変わる
綱吉が心の中で突っ込みながらさくらを見ると一番聞きたかったのはこの話なんだとばかりに真剣で
後から綱吉が聞いた話だがさくらの中では質問に対する答えは出ていたらしい
「優しいから」だと
それにしても何故だろうかと綱吉は苦笑いしながらちらっと周りを確認する
他の三人がさっきよりも耳を澄ませているような………
「オレは強くないよ」
強いというのはヒバリさんみたいな人だと綱吉は孤高の浮雲を思う
あれはあれでちょっと、いやかなり考えさせられる問題点もあるが強いことには変わりない
けれど四人は全く納得出来ないと言った顔で綱吉を見返す
口を開いたのは「こんな甘いもん食えるか」と文句を言って一人お茶を飲んでいた黒鋼だった
「……おい、ガキ。お前どんな環境にいたんだ?」
「え、え?」
「少し闘えるだけならまだしもあの強さはそんなもんじゃねぇだろ」
「ごもっともーっ!!」
でも、聞かないで欲しかったと綱吉は頭を抱える
彼らには綱吉がマフィアという組織の十代目候補で、そのために危険な目にもあったことがあるのだととっくに伝えていた
だからこの場合はきっと仲間のことを言っているのだと個性豊かなファミリーを思い出して頬が引き攣りかける
綱吉のファミリーはこの四人よりも遥かに個性的でまとまりのない集団だ
ええと、と言葉を探す
「何人かは知ってると思うけど……半分以上は同じ学校の、学び舎の人達で」
「へー、学び舎かー」
「あ、はい。で、仲間には他校の人とかもいるよ。家は元々敵だったりした人達と一緒に暮らしてるんだ」
『敵!?』
「う、うん………よく考えたらフウ太以外みんな命狙ってきたんだっけ」
ボソリと続けられた言葉は多分聞こえていない
なんでそんな人達とと驚く面々に綱吉は気圧されながらも頷いてみれば小狼とさくらは心配そうに、ファイはへにゃりと笑いながら、黒鋼は理解出来ないといった顔で綱吉を呆れ混じりに睨む
「なんでそんな奴らと暮らしてんだ?」
「う………成り行きとしか」
「な、成り行き………ですか」
「あははー、ツナ君らしいねー」
それでこそ‘大空’なのかもねーとファイが言うがちょっと気にしなさすぎじゃ………と他の三人は思う
綱吉のお人よしっぷりは周知の事実であるのだが、仮にも自分の命を狙ってきた相手に‘成り行き’はないだろう、‘成り行き’は
小狼達の上に浮かぶ広大な存在に例えられるのも無理はない
さくらはそっと手を伸ばすと綱吉に触れた
顔に浮かんだのは‘さくら’の名前に相応しい、ほわんとした笑顔
「やっぱりツナ君は優しいね。遅くなっちゃったけど、わたしの旅について来てくれてありがとう」
「そ、そんなこと」
「あるの」
えへへーと本当に嬉しそうに笑うさくらに綱吉はあわあわとしながら小狼を見ればにっこりと笑われた
唇が微かに動き、姫と同じですと音なく囁かれる
最初、綱吉と出逢った頃よりも格段と穏やかに優しくなった雰囲気
「(オレがついて来たのって、どっちかっていうと小狼君のためだったんだけど)」
その必要もなかったのかもしれないと綱吉が思うほど、小狼とさくらは数々の事件を自力で乗り越えてきている
綱吉が手伝うことはほんの些細なことで
「わたし、ツナ君の他の仲間の人達にも会いたいな!」
「姫に同感です」
「オレ達もだよねー、黒様」
「だからその呼び方やめろっつってんだろが!!」
「きゃー、黒様が怒ったー」
平和だなと、綱吉は一気に騒がしくなった四人に笑うと紅茶に手を伸ばした
綱吉が支えているようで、いつの間にか支えられている
マイナスもプラスにしてしまう仲間達
「おいしい………」
啜った紅茶のようにほんのりと温かい旅路はいつか終わる時が来ると綱吉は知っている
悲しみの連鎖が否応なしに訪れると超直感はざわめいている
けれど
「(まだ………いいよね?)」
願わくばもう少しの間、この関係を続けていきたいと大空は祈る
‘君達’に出会えてよかったと思うから
.
- 13 -