届かない、幻想曲





君は輪廻を信じますか?

歌うようにそういったお前は、とても冥い目をしていた



「………信じますかって言われても」



夕方の帰り道、珍しく山本も獄寺君も用事でいなかった一人ぼっちの帰路にふらりと現れたそいつは悲鳴を上げる隙もくれないで、ただ思い付いたように、思い出したようにそう言った

実体化するにはクロームにもお前にも負担がかかるんだろう、なんて言わせてもくれない

心配なんてさせてもくれない

唐突な言葉に困惑する俺に、骸はうっすらとした寒気のする笑顔を浮かべるだけだった

たぶん、だけど「実際に六道輪廻を巡ったお前がいるじゃん」なんて答えは口にしてはいけないし、骸が求めている答えとも違うと思う

むしろ、どっちかと言えば禁句だと超直感が騒いでいる



「……お前は、どうなの?骸」

「僕ですか?」



結局聞き返すしか出来なかった俺にわざとらしく驚いた反応をした骸が「そうですねぇ」と愉悦に瞳を細める

いつものように走る怯気は、しかしいつもよりもぞっとするほどに足がすくんで



「信じていますよーーーそう答えれば満足ですか?沢田綱吉」

「満足ですかって………」

「クフフ」



冗談ですよ。と骸が続きを歌う

目の前にいる俺なんか全く見ていない、何処か遠い景色を見るみたいな、俺じゃない別の人を見詰めるような、でも、懐かしさなんてかけらもない激しい憎悪を込めて俺を見る

それがなんでだろう、怖いから見られたくないはずで喜ぶべきところなのに不満に感じてしまった

俺を見てって思い、ああ。って気付く

本当に骸は俺を見ていないんだって



ーーー俺は、俺なのに



「………そうですね、夢見が悪かったとはいえ野暮なことを聞きました。あの人は、ーーーはもう、いないのに」

「え………?」



今、なんて

聞いたこともない、なんだか淋しげとも憎悪とも取れる呟きに顔を上げた俺に、だけど骸は静かに微笑むだけで言い直すことはしなかった

ひどく穏やかで、感情が凍り付いていて、慈しみともとれるのに、殺意があって



「Arrivederci」



俺がぼんやりとしている間に自分自身の感情に折り合いをつけたのか、来た時よりもあっさりとした様子で背を向けられる

呼び止められなかったのは、俺が弱いから

追い掛けることが出来ないのは、俺じゃ駄目だって痛いくらいわかったから



「なん、で………」



似合わない言葉を囁いたお前

絶対絶対聞くことなんかないって思ってた単語

何があってもお前だけは言わないはずだったーーーそんな呟き



「っ、はは………夢見が悪かったっ、て」



つまり、たぶん、それはそういうことなんだと壁を殴り付ける



「っくしょう………」



輪廻を信じますか?

夢見が悪かったと言ったなら、それは俺達にはわからない前世を見てしまったってことなんだろう

機嫌が悪くて、たまたま見付けた俺に八つ当たりするつもりで聞いたんだろう

殺し合いに比べれば可愛いはずの八つ当たりは、なあ、骸。お前のその言葉がめちゃくちゃ痛い

お前の質問は、いつだって残酷だ



『あの人は、‘大空’はもういないのに』



ぽつりと呟かれた、ぽつりと言った

ひどく穏やかで、感情が凍り付いていて、慈しみともとれるのに、殺意があって

でも感じた、とても人間らしい想い



「本当、は……‘違う’って、言いたかったんだろ?」



お前の呟いた、殺意の中に愛しさを含めた‘あの人’とは違うんだって



骸、お前がわからないよ

あの人って誰?

お前には既に‘大空’がいたの?

殺したいくらい愛してる、そんな‘大空’って誰?



俺の上を滑る視線、俺を決して見てくれない視線

それが堪らなく苦しくて、辛くて、切なくて、痛くて、むしゃくしゃして……悲しくて



「っいよ、憎いよ……俺はっ、あんたが、憎い」



顔もわからない、誰かも知らない、そんな‘大空’の‘あの人’が憎い

俺に似ているだろうその人が、憎い



ーーーだって俺は骸のことが、好きだから




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