紅と共に蘇る記憶



嗚呼、なんてくだらない世界



「ヒィっ、た、助けーー」

「…………」



振り下ろした刃が染まる、赤く赤く

片目の赤と同じ鮮血がしぶく

耳に焼き付いて、こびりついてなかなか離れてくれそうにない愚かな叫び声

黙々と殺し、蹂躙し、ばらし、曝し、千に砕いた四肢のかけらを踏み潰す

この身に宿された数え切れない感情に身を焼かれ、幾億にも匹敵する憎悪の炎を燃やしながら唇を嘲笑の形に歪めた



「クフフ………」



当たり前のように過ごした日々の、なんと遠いことだろう

やはり取るに足らない世界だと呟きながら眼帯を外し、無理矢理取り戻させられた記憶の渦を抱えながら後ろを振り返る

震える小さな二つの影



「一緒に来ますか?」



尋ねた理由はほんの気まぐれでもあって、利用するためでもあって、きっと大人気ない意地でもあった

するりと滑り落ちた言葉に自分自身で可笑しくなりながら、三叉槍の切っ先を危なくないように下に向ける

そう、これは意地

『貴方』とは違うと言いたかったのかもしれない



「ーーー……………」



遠い、遠い、遥かな昔

幼い頃よりもずっと昔、何百年もの輪廻の向こう側



『私の霧になれ』



………苦々しく、狂おしいまでの憎悪だけが胸に残っている

心も絆も笑顔も痛みも全て消えて、捨てて行った人

心も絆も笑顔も痛みも全て覚えている、捨て切れなかった僕



「僕は六道骸です」



思考を振り払うように思いつきの名を名乗り、それと分からぬように苦笑した

輪廻を旅する屍、だってとうの昔に僕は死んでしまっていたのだから相応しいとしか言いようがない
………炎の翼が火の粉の羽根も残さずに消えたあの日、僕の世界は終わりを告げた



伸ばされた二つのか弱き者の指先は一体何を夢見ているのだろう

向けられる輝きの眼差しに、僕は殺伐とした居場所を与えるのだ

マフィアを残らず殲滅し、平和を望んだ彼に反抗し、数百年越しの全き裏切りで世界大戦を引き起こす

その代わり、僕は幾らでも君達を利用するけれど見捨てはしない



「(……僕は、知っているから)」



しんしんと胸には溶けない真白の雪

足元には緋色の桜が鮮やかに艶やかに散って彼岸の想いを無言で紡ぐ



「(さあ、世界を廻しましょう)」



『愛』をなくして忘れたこの世界に終止符を




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