動くモノと不動の心
※SSです
変わり始める邪魔なモノは全て壊さなければならない
狂気の月を連想させる妖艶な微笑を薄く唇の端に浮かべたスペードは抜けるように白い肌を闇に浮き上がらせ、藍色の髪をさらさらとこぼれ落ちるように揺らしながら細い指先を頤に当てた
氷の花が咲く瞳が見詰める先は遠くて近い未来
いずれ訪れる足音の音色を知りながら衰微を許さなかった時間に刹那の感傷を紡ぐ
「世界は動きはじめる、あなたの意志を超えて」
純白の翼はやがて黒を帯びていき、創始者の願いをいつかは忘れていくだろう
組織は確変を遂げて始まりにはなかった想いの花弁を燻らせて揺れる
スペードはそっと微笑むと壊れそうな心を抱きながら十中八九避けられない結末に向けて激動の時を数えだした
翻る外套が哀惜を歌い、はためく風に慟哭を鳴かす
希望が潰える可能性は高く、それでもなお己の望みも棄てられないままに加速しだした運命の歯車
「ーーー……………」
溶け消える声のさらわれた夢
煌々と輝く月だけが嘲笑うようにスペードを、人界を見下ろしていた
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