忘れて、問うて…
※微WJネタバレ注意!
ゆらゆらと揺らぐ冷たい世界
退屈な時をたゆたいながらまどろんでいた骸は曖昧な思考の片隅に半身と呼んでもおかしくはない少女の声を聞いた気がしてぼやけていた思考を覚ます
遠い遠い、一人きりの水槽に閉じ込められた骸からは手も届かない場所
クロームと呼んだつもりの唇は動かず、戒められた体の動きに合わせて水の波紋が強くなるだけ
少しずつ少しずつ神経を研ぎ澄ませていた骸は、ふと頭の中に流れ込んできた、クロームを介して聴こえた声に疑問をもたげる
(この声………何処か懐かしく、知っているような…………)
でも、何処で?
骸の中に消化不良の言い知れぬ不安にも似た感情が沸き上がる
聞き覚えのある、似ている、思い出せない声
少なくとも‘六道骸’として生きているこの命の時に聞いたものではないだろうけれど、くわん、くわんと響いて来る声のトーンには脳を引っ掻かれるような不快感と不思議さがあった
誰かも解せない謎めいた声に、水槽につかる骸の眉がひそめられる
間違いなく聞き覚えはあるのだ、そして骸はこの声の主を知っていた
クローム。と意識で名前を呼びかけた骸の耳に、一瞬だけ強く鮮明にはっきりと外界からの声が届いた
それは相手の言葉を受けてクロームが動揺したからでもあり、また骸も声の主が誰かを理解して息を詰める
(っ、この、声は………シモンファミリーの、ボスの声)
何度か見かけ、何度か言葉少なに会話をしたことがある初代ボンゴレファミリーの同盟相手
(そう……今は炎真という名前なのですね)
裏切られたと明確に聴こえた声に、そんなことはしないと言ったボンゴレのボスの声に、クロームが骸の存在を感じ取るよりも早く意識を切り離す
こぽりと気泡が淋しく上に昇った
骸は口元に僅かな微笑を浮かべると、懐かしい声に浸りながら心の中で問い掛ける
(あなたは………あなた達は、それを知ってどうするのです?)
骸の抱える消え去らない過去に刻まれた答え、ボンゴレとシモンの知りたい事実
温もりの感じられない空間で微笑みながら骸は静かに静かに意識を闇に沈めた
こぽり、こぽりと気泡が弾ける
逆しまに返る結晶に全てを覆い隠すように
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