狡く君に縋り付く





貴方の為ならば裏切れた

貴方の為ならば傷付いてもよかった

貴方の為ならば何だってーーー




空に手を伸ばし、眩しくもない月明かりを遮ってみる

遠い数百の向こう側にいた頃はキラキラと踊っていた輝きが肉眼で見ることが叶わなくなったのは何時からか

一つ二つの明かりは探せば見付かるがお世辞にも綺麗とは言い難くて



「………骸?」



そっと手を降ろすと一連の動作を黙って眺めていた彼が眉を寄せるのがわかった

己の名を呼ぶ低い声には隠しきれない疑念が浮かんでいて、雲雀君。と囁くように返せば更にシワが深まる

ゆっくりと合わさり邂逅した視線が絡まって解れない

呪縛の魔法を唱える術など知るはずもないのに、静かな静かな鋭い眼差しから目がそらせなかった

寂しいほど、彼の眼差しが‘彼’に似ていて

悲しいくらい、懐かしい‘彼’を彷彿とさせて

‘あの人’を思い出させる沢田綱吉と同じで雲雀恭弥という人間に記憶を揺さ振られて胸が締め付けられる

何もそれは彼ら二人に限った話ではないのだが、たぶん彼ら二人が一番あの日々に近い



骸にとって最も『幸せ』に近かったあの日々に



「骸……?」



なかなか応えないことに心配になったのか

心地好く低い声が敵意もなく尋ねてくる

そんな不器用な所まで彼の‘雲’に、出会い方も再会も独特だった‘彼’に似ていて微笑しながら首を振った



「何でもありません」

「嘘」

「何でもありませんよ……少なくとも、君には関わりのない話です」



嘘、本当は君になくても‘君’にはある

眉を寄せたまま即答した獣の双眸が不機嫌に揺れながら僕の腕を掴んだ

あの頃に憧れた‘あの人’とは違った細い光色は今や闇色になって風に吹かれる

だけど例えるならそれは‘黒い太陽’で、闇からは程遠い

‘僕’を恨みながらも気にかけてくれていた理解者は時を超えてもーーー変わらないまま



『………君はすぐに無茶をするね、D・スペード。そんなにボンゴレがーーージョットが大切なのかい?』

『馬鹿なデイモン。僕は止めないよ。だけど次に会う時、あの日以前の関係に戻る。僕は君を、僕が君を殺す』



………裏切りの一端を知っていた‘彼’は何も語らずに、己の胸にだけ秘めて亡くなったのだろう

書き換えられた史実を見送ってくれた優しい‘彼’は黙認してくれたのだろう



貴方の為ならば裏切れた

貴方の為ならば傷付いてもよかった

貴方の為ならば何だってーーー



「(それはアラウディ、貴方がいたから。僕がいなくなっても、君になら‘あの人’を絶対に守り抜けると信じていたから)」



「雲雀君。もし、もしもーーー」

『アラウディ、もしもですがーーー』



織り成される未来に在った黒

織り成される過去に在った金

織り成される変わらない願い



「何さ、骸」

『……何、デイモン』



重なる声がある

忘れられない言葉がある

君にまでかつてを夢見てしまう僕を、君は在りし日のように支えてくれるだろうか



『不安になるのは当たり前だよ。彼は‘大空’なんだから。現実でも空に手を伸ばしたって届かないーーーその象徴を背負ってるんだからね』



狡い僕の側に、いてくれますか?




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