懐かしきは悪夢の
六道輪廻、巡るばかりの終わらない世界
何度も生まれて死んだ、その度にまた生まれて死んでいく
気の遠くなる歳月を繰り返した記憶を刻み込まれた紅い右目
「ーーー………っ」
弾かれたように飛び起きて、荒くなった息を、暴れ回る心臓を必死で落ち着かせる
夢を見たのは何時ぶりだろうか、動揺と目覚めを二人に気付かれないように深呼吸を繰り返す
……懐かしい、夢だった
からかう相手がいて、たわいない会話をする彼がいて、くだらない説法を口ずさむ人がいて、我が儘を宣う子供がいて、会えば鋭い牙を剥く獣がいて、そんな彼らを見守る『貴方』がいた
とても遠い遠い日に体験した一つの人生の、けれどどの人生よりもつい最近のように感じられる記憶
僕が‘生きて’いたころの記憶
差し込む月明かりに窓に近づいて空を見上げれば、彼の日を思い出させる月がぽっかりと浮かんでいた
揺らめく光がなくて、時代が移り変わってしまったことだけが相違点なのか
それともあの日に比べてまだまだ幼い僕の立つ場所ではないということか
『私の‘霧’』
………或いは憎しみしか抱けなくなってしまったからか
「ねぇ、僕の‘大空’」
睦言を囁くような声音でひんやりとした息を吐き出す
甘いはずのささめきには敬う色は一つもなかった
「僕を鈴蘭のようだと貴方は言った」
初めて会った時、霧に相応しいと思うと同時にそう思ったのだと言った貴方
可憐な見掛けとは裏腹に毒を持つその植物は僕に似ていると、手折れば凶となるか吉となるかわからないなと笑って言った
「遅くなりましたが……貴方に毒薬を渡します」
鈴蘭の毒を僕は知らない
それでも貴方が落ち着き払って絶対に来ることはないだろうと思っていた毒を解放しようと思う
「大嫌いですよーー貴方も、この世界も」
月光から逃れるように閉ざした瞳に、心に泡沫と漂う夢の名残
それらを断ち切るように標的にーーー後継者に思いと思惑を馳せながら終わらない宿命を胸に刻む
‘運命’なんて、そんなものはいらない
この身にあるのは‘宿命’だけでいい
「Vongola]世……そのための礎になってもらいますよ」
変えられる人生と変えられない人生
恋い焦がれる乙女のように、僕はその時を待つ
………一つ、何処からか悲しげな声が聞こえた気がした
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