青々と茂っていた青葉が赤や黄色に色を変える季節。
肌寒い風がわたしの髪と色とりどりの木の葉を空へと舞い上げる。
風に乗ってひらひらと飛んでいく木の葉を見上げ、いったいあなたはどこにいるのだろう、と取り留めもなく思う。
暗い宇宙の果てなのか、見知らぬ大地を渡り歩いているのか、わたしにはまったくわからない。
『じゃあな』
そう言って去って行ったあの日の背中を今でも覚えている。
何よりも鮮明に、鮮烈に、わたしの瞼の裏に焼付いて離れない光景。

「バカ、みたい……」

そう自嘲して目を瞑る。
あれからいったい何年経った。今更、こんな記憶を辿っても意味はないのに。
それでも、こんなにも切なくて感傷的になってしまうのは、遠い記憶のあの日と同じような空だからだろうか。
そうやってぼんやりと物思いに耽るわたしをよそに、薄暗い菫色の雲が薄紅梅色の空と重なってあたりは夜へと近づいていく。
ひっそりと少しずつ、忍び足で、黄昏に姿を隠して宵が迫る。
その影に気が付いたのは、ふわり、とふいた風。その風が運ぶ香りに目を見開いた。

「しん、すけ?」

振り返った先に紺藍の影。わずかに残る光が淡く輪郭を写しだす。
その影がふっと笑った気がした。笑って、唐突に現れた想い人に戸惑うわたしへと近づき、そっと頬に触れる。それと同時に、懐かしい香りが鼻孔をくすぐった。
その冷たくも優しい指先がわたしの頬を数回撫でたあと、彼はすぐに背を向けて歩き出す。

「ま、待って……!」

追いかけようと手を伸ばしたわたしをひらりとかわし、影はすっといなくなった。
ただ一言、「またな」という風のような囁きと、頬を掠めた柔らかなぬくもりを残して。


憧憬の果てはなぜいつも黄昏の中にあるのだろう

(だからまた、残されたわたしはあなたに焦がれて待ち続けることになるのだろう)









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