彼が頭を乗せている私のひざが彼の温度で温まっていく。彼の銀の髪を梳くとさらさらとくすぐったい感触が指を撫でていった。ひざの上にある整った顔立ちはまるでガラス細工のように儚げで少し見惚れた。


「イヴァン、さん」


彼の名前を呼ぶ。囁くようにか細くて弱い声だった。私のその声は彼に届かなかったのか彼のあの紫の瞳は姿を表さなかった。その様子を意に介さずに私は何度も彼の名前を呟く。


「イヴァンさん、イヴァン、さん」
「どうか、したの」


彼の返事が耳に届いて私はひっ、と息を呑む。彼の瞳は眠たげに細められていた。仕事が大変な時期に無理に会いに来てくれたのだからきっと疲れているんだろう。無理をさせてしまったと胸がちくりと痛んだ。私の頬に彼の手が伸びる。頬を撫でた彼の手は酷く冷たかった。


「イヴァンさん、」
「なあに」
「会いたかった」


イヴァンさんはびっくりしたように目をぱちぱちさせてそうだね、と笑った。その笑顔はなんだかとても穏やかですごく泣きたくなった。彼の目を私の手でふさいで、彼の名前を呼ぶ。


「すごく、会いたかった」


声が震えた。彼に触れる指が震えた。こんなことを言っても彼を困らせてしまうだけなのに、言葉が止まらなかった。震える声や指先が彼に伝わらないように力を入れる。少しだけおさまったような気がした。体すら震えていたから、本当におさまったかは分らなかったけれど。


「すきなのにくるしいの、どうしたらいいかなんてわからないの」


彼は私が欲しいといったものなら何でも与えてくれた。どんなに高いものでも貴重なものでも、全部与えてくれた。愛されているとも思う。会いたいといえばどんなときでも会いにきてくれる彼に不満なんてあるはずがない。それなのになんでこんなにも苦しくて、寂しいのだろう。


「すきなのに、すきなのにどうして、困らせることしかできないの」


私はイヴァンさんを困らせることしかできない。その事実が苦しくて哀しくて歯がゆくて唇を噛み締める。鉄の味が滲んでぴりぴりした。彼の目を覆っていた手で今度は私の顔を覆う。こんな顔見せたくなんてない。


「僕はもっと君に困らせて欲しいけどな」
「な、んで、」
「だって君が僕を必要としている証拠でしょ?」


彼の手が私の手をつかんで顔から引き離して手が私の頬に添えられた。冷たい色合いの瞳が私の顔を覗き込んで、顔が近づく。血の滲んだ唇に彼の唇が触れた。


「こんな事に苦しむなんて、いいこだね」
「私、は」
「君が望むなら世界だって手に入れてあげるのに」


彼の舌が私の血を舐める背筋が震えて崩れ落ちそうになりながら彼に縋り付く。私の様子に満足げに彼は笑って囁いた。


「я люблю тебя」









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