一国の王であり、英雄と言われるシンドバッドが記した彼の武勇伝を指でなぞりながら、その文字を声に出して読み聞かせる少女、きちんと座る少女の横に寝転びながらクスクスと笑う少年は時折怯えたり声をあげて笑ったり、面白おかしく物語に聞き入っていた。

「そこでシンドバッドは、ジャーファルに命じました」
「うんうん、ジャーファルさんは火を吹くのかな。それとも牙でガブリと食べてしまうのかな」
「アラジン、本を引っ張られると読めません」
「ご、ごめんよ…」

アラジンと呼ばれた少年は、にっこりと笑いながら物語も、そしてそれを声に出して読む少女も大好きだった。それ故に笑ったまま心の底から嬉しく思えてしまう。
この物語は実際にあった事を少し脚色してはいるものの、物語の中に出てくる怪物と称されている強い人間のオリジナルである少女の事をしっているアラジンは、ただ物語を読みながら気付いていないのか自分もニコリと時折柔らかい表情をする少女に安心した。

「もう夜です、寝ましょう」
「ええっもうかい?もう少しだけ読んでおくれよー」
「いけません。モルジアナさんとアリババさんにきちんと寝かしつけるよう言われてますから」

有無w言わせないままズルズルと引きづられ手みれば、その力はやっぱり普通の女の子よりも強く思える。
黒くて長い髪に黒い瞳、どこかの種族だとモルジアナが言っていたのを思い出しながら怪物と呼ばれた少女を見つめる。

「何でしょう」
「きみの瞳は本当に綺麗だね」
「ほ、褒めても続きは読みませんよ」
「ふふふっ」
「寝て下さい」
「うん、おやすみ!ウーゴくんも、おやすみ」

ぼふりとベッドへ倒れ込んだアラジンは、ぼんやりと先程まで読んでいた物語を思い返してクスクスと埋もれた布団の中で笑う。
怪物と呼ばれた少女は、戦いたくなかったのに戦うしか生きる術がなくて。
シンドバッドに勝つ事も負ける事もなく…


「明日も続きを読んでくれるかい?」
「大人しく寝るのでしたら、喜んでお読み致します」
「明日はどんな冒険だろうね」
「そうですね…」

きっとその怪物は弱虫で、弱くて、怖がりで。
友達が欲しくて戦っていたんだろうね。
優しい優しい、僕の友達。



(きっとシンドバッドおじさんみたいな冒険をして、すごく強い敵が出てきてもモルさんときみがいれば力強いね)
(アリババさんもアラジン、あなたも十分強いです)
(ふふふ、そうかい?嬉しいなあ)









[←戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -