赤いコートを羽織っている大柄な男、アーカードとその隣にいる小柄な少女はこの丘に着いてからずっと黙ったままだった。暗闇は時間感覚を狂わせここに着いてからどのくらいの時間が立ったかさっぱりわからない。ただ、暗闇は空に浮かぶ星達をいつもより数段、美しく見せている。この地上にあるどんな芸術作品よりも美しく壮大だ。夜空はまるで、星という作品を展示する美術館のようだ。
けれどこの男と少女は星を鑑賞しに来たわけではなかった。

「寒くはないか」

薄着の少女を気遣ってなのか、気紛れなのかはわからない。ただ、この沈黙に飽きただけかもしれない。

「大丈夫」
「じゃあ何故、お前さんの肩は震えている」

アーカードは少女を引き寄せると羽織っているコートで少女の肩を包む。
少女はアーカードに対してよく意地を張る。自分は人間で相手は怪物。アーカードがやろうと思えば少女の細い腕など意図も簡単に捻り潰せてしまうのだ。
アーカードに対する意地は少女の人間としての最後の抵抗なのだろう。人間は弱くないと。それを知っているからこそアーカードは少女の側にいる。


お前さんは私の何倍も強いよ。そう、心の中で呟いてみる。


身体が温まり眠気に襲われ、首がかくんと落ちる少女。

「早く朝になればいいのに」

眠くて仕方ない自分が憎らしい。寝まいと必死に目を擦る、その愛らしい仕草がアーカードの目に映る。
朝が近付いてきているようでアーカードも若干眠気を帯びてきていた。もう少しだ、と励ませば今にも目を閉じそうな少女はまた目を擦る。


「アーカード、起きてアーカード」

少女に揺さぶられ重い瞼を上げる。いつのまにか寝ていたようだ。

「ほら見て」

アーカードは言葉を失った。あれはいつもの光景。美しい日の光に消え逝く自分。

「私が死んだ光景……?」
「でもアーカードは今を生きている」

少女の言う通りだ。
地獄とかしたロンドンで彼は消え、やがて主のもとに戻りその主も消え、あれからずいぶんと長い時がたった今、争いに身を置くこともなく平和な地で少女と出会った。

「お前さんといると不思議な気分になる」
「何故?」
「私が持ってないものをお前さんは持ってるからさ」



長夜を越える誇らしげな夢は我と共に、ただそばにずっといたから









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