月が高く昇った頃、季節柄少し冷たくなってきた夜風を受けて着物の袖が揺れる。
空を見上げてみれば此処数日にしては珍しいことに雲一つなく、月の光で足元までがそれなりに明るく照らされていた。
真夜中、人通りなんて蚊ほどもない田舎道を進んでたどり着く、一軒の家。
まだ起きているだろうかと多少不安に思ったが、庭の方から薄明かりが見えたので断りなく裏口から入った。

「よォ、久しぶりだな。」

数年ぶりに会う昔馴染みは、随分と綺麗になっていた。

「し、んすけ・・・?」

肩を過ぎるか過ぎないかの長さだった髪はヅラ並に長くなっていたし、月光に照らされた肌は白いとはいっても健康的な色だ。

「ったく、化けモンでも見たような顔しやがって・・・・・・っと、」
「晋助だ、本物の晋助だ・・・!」

「本物ってお前・・・そりゃ偽モンの俺がいるみてぇじゃねぇか。」
「だって、だって・・・・・・!!」
「―――悪かったな、一人にして。」
「・・・・・・ちゃんと会いに来てくれたから許す。」
「そりゃありがてェ。」

自身の記憶よりも大人びた感のある彼女は、ふふ、と記憶のそれと変わらぬ様で微笑んだ。

「ねぇ、晋助、」
「あ?」
「いつまでいるの?」

だって暇なわけじゃないでしょう?、眉尻を下げながら尋ねるそれも変わっていない。

「いつまで、なァ。」
「明日は昼から雨らしいからー・・・明後日、かな?もしまだこっちにいるなら、一緒に先生に挨拶行こうよ。」

よし決まり、と答えを聞く前に話を完結させるところも昔のままだ。

「・・・・・・あァ、それもそうだな。」
「じゃあ、お花の用意もしておかなくちゃね。」

あ、晋助が泊まるなら明日晴れてる内に買い出しも行かなくちゃ!などと言う彼女の頭の中では着々と予定が組み立てられているらしい。
ねぇ晋助、と向けられる微笑みに自然と口角があがった。

「なァ、」

あぁそうだ、忘れない内にわざわざ今日足を運んだ目的を果たしておこう。

「?なぁに、晋助。」

この想いを告げたら、目の前の君は何と答えるだろうか・・・そんなことを考えながら、こちらを見て首を傾げる彼女のやわらかな頬にそっと手をそえて、するりと撫でた。

「俺は、先生を奪ったこの腐った世界を、いつか、必ず壊す。」
「・・・・・・うん。」

哀しげに憂いを帯びた表情も綺麗だが、やはり笑顔のほうが似合うと思った。
彼女の頬を、もう一度撫でてみる。

「そうなった時・・・お前は―――俺の隣にいろ。」
「・・・・・・え?」
「俺の隣で、笑ってろよ。」




いつだったかなんてことはもう忘れてしまうくらい昔のことだけれど、先生に伝えたことがある。

『こいつの笑顔は、俺が守る』

確かあの時、先生は俺達が大好きだった柔らかい笑みを浮かべてこう言ったのだ。

『なら、晋助のその決意表明の証人は私ですね。』

と。
そのあと優しく頭を撫でてくれて、また微笑んでくれた。




「わたしで、いいの?」
「お前以外に誰がいる。」
「しん、す、け・・・・・・」

不安に揺れていた瞳に、涙が浮かんだ。
自分は泣かせたいわけではないのに・・・どうしたらいいのだろうか。
力を入れ過ぎないように、彼女を抱き寄せる。





なァ、松陽先生―――
俺は神や仏なんて信じちゃいないが、

"今腕の中にいる大切な彼女は俺が必ず守る"

これだけは・・・あの日の決意とともに、もう一度貴方に誓います。





すべての幸いをかけて
天上におわしますアナタへと
誓います


(なァ、)
(なぁに、晋助?)
(―――愛してる。)
(うん・・・わたしも。)










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