その日はなんだか眠くなくて、やけに瞼が閉じられなくて、夜遊び好きのあの人に電話を掛けたら案の定3コールで受話したものだからちょっとわらってしまった。「ねえ雅治くん、寝れないんだけどたすけて」『お前さんは……俺に何を期待しとるんかのう』「うーん、子守唄?」『人違いじゃ。ブンちゃんに頼めばよか』「確かに!ブン太くん弟小さいもんね。子守唄とかノリノリで歌ってくれそう」『なら俺はお役御免ナリ。おやすみ』「だーめ!待った待った!」雅治くんはきっとわたしをからかってるんだ。おやすみ、なんて言ったって切るつもりないくせに。今だって何も返事してくれないけど、電話は繋がったまま。あーあ、このままわたしが寝るまで話しててくれたらいいのに。さすがにそこまで甘やかしてはくれないか。



『…暇なら上、来るか?今日は星が綺麗じゃ』
「!行くっ!待ってて」



プツッ。電話を切ってベッドに投げた。最後になにか雅治くんが言ってたような気もするけど…まあいいや。だってこれから会えるんだし!


雅治くんは最近お隣さんちに引っ越してきた男の子。同い年なのに童顔のわたしとは真逆で、大人っぽくてどこか不思議な雰囲気を纏ってる。よく彼は、わたし達のマンションの屋上で静かに星を見てて、ときどきこうしてわたしを誘ってくれる。そんなときわたしは嬉しくなってつい大声で星空に感動してしまうんだけど、そのたび雅治くんに叱られていた。なんだかお兄ちゃんみたいだなあ。



「はあっはあっ…雅治くん!」
「急いで転んでも知らないぜよ」
「大…丈夫っ!はあーっ疲れた!」
「こっち来んしゃい」
「わっ毛布!今日はずいぶん用意周到だね」
「なんとなく、お前さんを呼びたくなってのう。………以心伝心じゃ」
「……ふふっ。そうだね!」



以心伝心。うれしいな。ひとつの毛布をふたりの肩に掛け合い、…ていうかわたしが無理やり入りこんだだけなんだけど、ぴったりと右半分が雅治くんの左半身にくっついていて、なんだか胸がどきどきした。きっと、わたし達が恋人同士だったならわたしは雅治くんの肩に躊躇なく頭をもたれることができたのだろう。それから雅治くんはわたしの肩を抱き寄せて、ふたりして夜空を見上げて微笑み合って……キスなんかしちゃって。そこまで想像してちょっと恥ずかしくなった。こんな近くに本人いるのに、わたし、なに考えてるんだろう。赤くなった頬を隠すように抱えた膝に顔をうめると、ぽんぽんと頭を叩かれるような撫でられるような感触。雅治くん。



「何か悩んどるんか?」
「……なんでもないよ。雅治くんは?」
「俺も、何もないぜよ」
「そう。良かった」
「……お前さんは冷たいのう」
「え?」
「こうして話すようになってけっこう経つのに、一度も悩みを相談してくれんじゃろ。隠したってムダじゃ。お前さんが悩んでるときのくせ、もう知っとる」
「………雅治くん、だって…」
「俺の悩みは、そうじゃな……妹みたいに可愛がっとる女の子が、辛い想いを隠し通しとることかのう」
「…!」



雅治くんがわたしをそんなに心配してくれてたなんて。でも雅治くんにとってわたしは、やっぱり妹みたいな存在なんだ。嬉しさと切なさ、そのふたつが心臓を二分していた。雅治くんの優しい手のひらが、再度わたしの頭を撫でた。



「すまんのう。ムリに言わせたいわけじゃなか……ただ、お前さんの気持ちを少しでも軽くしてやりたかったんじゃ」
「……ありがとう、雅治くん。…言いたくないわけじゃないよ。言えないだけ…」
「?……そうか」



あなたの恋人になりたい。この半分だけのぬくもりをすべて欲しい。ひとりじめしたい。そんなこと、言えるわけない。だってこのぬくもりを全身で感じたいと思うのと同じくらいに、失ってしまうのがこわいから。


臆病なわたしにまだ眠気は訪れない。夜空には眩しいほどではないけれど、その存在を確かめられるくらいの星が瞬いている。恋人ではないけれど、ぬくもりは半分だけだけど、頭を預けるくらいしてしまおうか。






沈まぬ微睡みにアナタの温もりがただ欲しい









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