「あ、また吸おうとしてる」
 「いっけないんだー」悪いことしてる子に注意する小学生みたいに、彼は私の咥えた煙草を指で摘んだ。
 もちろん私は既に成人済みだしこの煙草は他でもない自分が稼いだお金で買ったものなのでやましいことはこれっぽっちもない。
「返してよ」
「だめ」
 身体に悪いよ、と言って吊戯はそれを自分のポケットの中に押し込んだ。何が面白いのかわからないけど楽しそうに笑って私の手からライターを奪っていく。
「自分だって吸ってるくせに……」
「オレはいいの」
 だったら私だっていいだろ。タメでも一応上司にそんなこと言えるわけもなく、私は素直に諦めることにした。
「惰性でやってるならやめればいいのに」
 全くもってその通りだが、「ほっといて」私の口から出たのは可愛げない言葉だけだった。
「もう大人なんだから、好きにするよ」
 やましいことは何も無いなんて言ったけどやっぱり嘘。好きな男が煙草を吸っていたから。近づきたくて、お揃いの何かが欲しくて、早く大人になりたくて、そんなやましい気持ちで始めた。そのうち吸わなきゃやってられなくなって、今では立派なニコチン中毒者だ。ただでさえ仕事による失命の危険性を背負っているというのに、そこからさらに肺癌のリスクが上乗せされたし結局恋は実ってないし。我ながらどうにも残念な末路を辿ったと思う。
「タバコやめてさ、長生きしてよ」
「うーん……」
「なに? 不満?」
「もう一声かな」
 ふざけたノリで返されたので私も乗ってあげた。吊戯は少し考えた後、「あっ」と閃いたように手を打った。
「俺が長生きさせてあげる」
「……」
「何点?」
「…………10」
「低い!」
 予想外の点数でショックだったのかぶーぶー吊戯が騒ぎ始めた。それが面白くって何点満点かは言わないでおこうと心に決めた。
 ……禁煙、始めようかな。
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