ぜんぶ陽気のせいじゃない?


 いろいろと周辺が物騒だった小学校、中学校時代。マンモス校と呼ばれるほどに生徒数の多い超新星高校へと進学して多数の生徒の中の一人になれたのなら、少しは穏やかな楽しい高校生活を送れるのではないかと入学前の私は期待していた。でもその期待からは今、少し外れている。
 私達の学年、超新星高校2年は〈最悪の世代〉と呼ばれている。中でも特に素行が悪いとされているキッド、キラー、ボニー、ローくん、ホーキンスくん、アプーくんは今年のクラス替えで全員バラバラのクラスに散らされた。問題が絶えなかったからだ。ちなみに固まっていなくても問題は起きているし、彼らを慕う仲間もいたりで常に騒がしく、あまり意味はなかったように思う。
 私はキッドとは家がお向かいさんの幼なじみの腐れ縁、キラーはキッドと昔から仲がよくて自然と友人になり、ボニーとは中学3年間同じクラスだったのでそこそこ交流がある。これが私の悩みの種だ。周辺が物騒だったのはほとんどキッドとボニー、ちょっとだけキラーのせいである。
 キラーは多少空気を読んでくれていて頻繁には話しかけてこないけれど、キッドとボニーは高校に入ってからも人目も気にせずにフレンドリーに接してくる。
 ちなみにこの最悪の世代の6人は、キッドとキラーはともかく、仲が良いのか悪いのか正直よくわからない。つるんでいるかと思えば大喧嘩をする。何かしらの問題の渦中に必ず誰かしらがいることで有名だ。しかもこの最悪の世代は超新星高校だけにとどまらない。他校にも〈麦わらの一味〉や、ほかにも黒ひげ、ギャング、怪僧、スパイ……あだ名からしてヤバそうな人達が何人もいて、その人達も含めてとにかく最悪で、頻繁に揉め事が起こって警察沙汰になっているという話も耳にする。ちなみに小学校のころの習い事で知り合って以来連絡を取り続けている友人のロビンは、今はその麦わらの一味に属している。人生ってやつは、どこでどうなるかわからない。


 廊下側から盗み見る窓の外は晴れやか。今日はぽかぽか陽気というやつだ。それなのに私達は教室内にいて、イッショウ先生が教科書の文章を読み上げる声は眠気を誘う。どうにか耐えるので精一杯で、授業の内容はさっぱりだ。
 やけに長く感じた4時間目が終わって待ちに待った昼休み。それなのに未だに机に伏せたままの彼が今日はなぜか気になった。授業中から寝ていたのを私は確認している。普段ならもう起きて教室にはいない彼がまだ、寝ている。時々ローくんをご飯に誘いに来る2人組の先輩達も今日は来ていない。お昼を食べそびれなんてしたら、この後の時間がどれだけ地獄だろうか。そう考えたら自然と私の足はその人物の所へと向かっていた。
「あの〜、ローくん?」
「……」
 校則違反の黄色いカーディガン。机からは腕がはみ出していて、机の横には白い帽子が引っかかっている。トラファルガー・ローくん。最悪の世代の6人。そのうちの1人。キッドやボニーと一緒にいる状態で何度か会話したことがある。同じクラスになってからも話はしているけれど、友人と呼ぶのは少し違う……友達の友達のような距離感。プラスして最悪の世代というブランドが話しかけづらさを増長させている。キッドがよくうちのクラスに遊びに来るので、私を使ってローくんを呼ぶこともある。伝言係。いい迷惑だ。
「ねぇ、ローくん」
「……あ?」
 少し面倒そうに、だるそうにゆっくりと顔を上げたローくんの表情を見て、私はどうして声をかけてしまったのだろうかと少しだけ、いや、かなり後悔した。寝起きで機嫌が悪いのだろうか、いつにも増して視線が鋭い。
「あっ、えっと……お昼休みだけど、ご飯、食べないの?」
「……」
 窓際の席でいつも授業は聞いていなかったり、寝ていたり、教室にいなかったりするローくんは、口数が少なくて何を考えているかよくわからない。睨みの利いたその視線。私はまるで蛇に睨まれたカエル状態だ。
「……そういうナマエ屋は、いつもの奴らをほったらかしてこんな所で何してんだ」
「いや、さすがにご飯食べないと午後しんどいんじゃないかと……思ってさ」
 あはは、と笑ってごまかしつつ視線を逸らすと、いつもの、一緒にご飯を食べるメンバー達と目が合う。不思議そうな、どうしてわざわざ声をかけたのだと言わんばかりの表情を浮かべている。わかりますその気持ち。私も不思議に思っています。
「なんかごめん! 起こしちゃって」
「……」
 パンっと手を合わせて謝ってみたものの、ローくんは相変わらず何を考えているのかわからない表情のままで反応が返ってこない。いたたまれない気持ちになった私は、「じゃ!」と手を振り上げ、何事もなかったかのようにいつもの友人達の輪へと戻ることにした。

 今のやり取りでローくんが発した言葉は「あ?」と「こんな所で何してんだ」という、私への疑問だけだった。それも当たり前か、ただの友達の友達だし。そう思いながら自分の机を友人達の方へと動かし、椅子を引いて腰を下ろした。
「おいおい、ナマエがトラファルガーにわざわざ声かけるなんてどうしたんだ?」
「あの、まぁ……何となく?」
「ま、あの取っ付きにくさがなければカッコイイし私も狙っちゃうんだけどなぁ」
「そういうもんか? じゃ、おれはどうだ!?」
「やだぁ、ないない! ね、ナマエもそう思わない?」
「え、何の話?」
 このクラスで一番と言ってもいいほどのお調子者と、いつも元気なLA系ギャルが話す内容は大して頭に入ってこないまま、私はバッグから取り出したお昼ご飯の焼きそばパンの袋を開ける。ソースの香ばしい匂いをすぅっと吸い込んで一口目を口に含んだ。安いのに濃いやきそばの味が、この少しぱさついたパンと絶妙にマッチするんだよなぁ。もぐもぐと咀嚼しながら紙パックのいちごみるくを手に取る。
「ナマエにはさ、ユースタスがいるじゃん!」
「ねー、うらやましいなぁ」
 水分を口に含んだ瞬間の友人の発言に吹き出しそうになって、でもどうにかこらえた。いつの間にか話題が私とキッドの関係性についての話になっていたようだ。このクラスになってから何度も繰り返されたこの話題。いつになったら違うのだと納得してくれるのだろうか。否定をしないと肯定と捉えられることがほとんどなので、いつもどおりに反論する。
「だから、ただの幼なじみ!」
「ほんとー?」
「何回も言ってるじゃん……」
 本当に何回言えばわかってもらえるのかと、飲み終えたいちごみるくの紙パックをぐしゃっと握り潰した。はぁ、とひとつため息をついて焼きそばパンを食べ進めていると、廊下の方からこれまた何度も聞き慣れた「おい、ナマエ!」という声がした。間違いなくキッドの声である。少しはタイミング、考えてくれませんか。
「ほら〜、噂をすれば、じゃん。旦那が来たよ?」
「すぐ彼氏を旦那って呼ぶその思考……それに彼氏じゃないんだってば!」
 最後の一口を口の中に詰め込んで廊下の窓へと視線を向けると、よく知った赤色が目に入る。きっちりとセットされた髪とヘッドバンド、シャツを着崩していて中にはド派手なバンドのTシャツ。ガタイの良さも相まって、黙っていたって目立ちすぎる男。私は思わず立ち上がると潰れた紙パックをキッドに向かって投げつけた。なぜ今来るのだ。
「何!?」
「よう、おまえ絆創膏持ってたよな! くれ!」
「……保健室へ行けば済む話を……!!」
 キッドは私が投げた紙パックを難なくキャッチして窓枠に肘をかけ、絆創膏を催促するように手を私の方へと差し出す。そう、保健室へ行けばいいのに、どうしてここに。ふざけんなという思いを込めて私は小さく舌打ちをした。また友人達にニヤニヤされるじゃないか、どうしてくれるんだ。
「保健室はいろいろと面倒なんだよ、とりあえずくれ!」
「人に何か頼むならそれなりの誠意を見せてよね」
 こうして事あるごとに来られるこちらの身にもなってもらいたい。誠意を見せろとは言ったけれど、キッドは私から絆創膏を手に入れるまではここから立ち去ることはないだろう。知っている。ここは早急に事態を収束させるほうが先決だ。バッグから絆創膏を箱ごと取り出すと、再びキッドに勢いよく突きつけた。顔にでもぶつかってしまえばいいのにと思って投げたそれを、今回もあっさりとキャッチする。腹が立つ。
「もう全部あげるから」
「あ? 別に1枚でいい」
「何回も来るなって言ってるんだけど!!」
 ケガするたびに来られちゃたまらない。そもそも、どうして学校でそんなにケガをするのだろうか。まともに授業にも出ていないくせに。違うな、まともに授業に出ていないからか。
「毎回学校に呼ばれるママさんの身にもなったら?」
「勝手に呼んで、勝手に来るだけだから関係ねェな。知らね」
 あまりにも存在が目立ちすぎる幼なじみは「じゃ、サンキューな!」と勝手に話を終わらせて去っていった。
 急激に疲れがこみ上げてなだれ込むようにして椅子に腰を下ろした。ふぅっと大きく息を吐いてから机に伏せて窓側を見ると、同じく伏せて廊下側、つまりこちらを向いていたローくんとパチリと視線が合ってしまった。さっきの鋭いものとは違って見えた気がしたけれど、ローくんはまたすぐに窓の方へと向きを変えてしまった。あぁ、キッドが来たから見ていたのだろうか。そんなことを思っていると友人達の話題がキッドをはじめとした6人の話になったので、面倒になって体勢を整え直し、そのままゆっくりと目を閉じた。


 ハッと暗闇から意識が戻った。体育の授業をしている声が外から聞こえてくる。一方で辺りはしんとしていて人の気配が感じられない。そうだ、ここは学校だ。昼休みに少し昼寝をしようと伏せてからそう時間はたっていないはず――昼寝にはもってこいだと思ってはいたけれど、本当に寝ていたのだと理解するのに少しだけ時間を要した。そろっと体を起こして時計を見ると6時間目が始まったばかりだった。つまり私は昼休みどころか5時間目も爆睡していたということになる。5時間目が始まるあたりの記憶はぼんやりとあるようでほとんどない。黒板には〈自習〉と書いてあって、どおりで起こされなかったわけだと納得した。
 起こしてくれてもよかったのに。そう思いながら、ひらりと机から落ちた一枚の紙切れへと手を伸ばして拾い上げる。そこには『起こそうとしたけど起きないから諦めた! あんた寝起き悪いしさ、悪く思うな〜〜』という一文と、おちゃらけた顔文字が記されていた。6時間目の授業は選択、本来なら私は美術室にいる時間だ。
 さすがに熟睡しすぎだ。嘘か本当かわからないけれど私は一度起こされたらしい。5時間目をまるっと寝て過ごし、起こされて気づかないなんて。けれど起きなかったのは事実。今さらどうすることもできない。今日はこのまま帰ってしまおうかと小さくため息をついて、なんとなく窓際に視線を向けた。するとどういうわけか、誰もいないはずの教室に私以外の人がいたのだ。
「……あ」
「さすがに寝すぎだろう」
「えっ? え……何で、ローくんこそ、ひとりで何してるの」
 机に肘をついてこちらを見ているローくんがいたのだ。びっくりして私は素朴な疑問を思ったままにぶつけた。彼が選択授業に出ていないのはわかる、サボり魔だから。でもなぜ今、この教室にいるのでしょうか。
「いつ起きるんだろうと思ってな」
「はい?」
「ナマエ屋が寝てんのなんて珍しいモン見たからな」
 頬杖をついているせいで顔は少し隠れているけれど、そう言ってわずかに目を細めて微笑んだように見えた。そんな笑い方するんだ。これは……寝ていた私よりもそっちのほうが珍しいぞと思ったけれど、それよりも今の私の素直な気持ちを吐き出した。
「それなら……起こしてくれたらよかったのに」
「ユースタス屋と“夜遊び”でもしてたのか?」
「よ……違うし! アレはただの幼なじみなんだってば!!」
 今度は意地悪そうな、ニヤリとした笑みで夜遊びを強調したローくん。そんなローくんについつい友人達に返すような勢いで、強めに反論してしまった。初めて会話を交わしたのもキッドがいたから成立したようなものだったし、こうしてふたりで話すことも伝言がほとんどだ。ローくん相手にやってしまったなぁと思ったけれど、私の強めの口調は特に気にしていないようだった。
「あいつをアレとか言える女はジュエリー屋とおまえくらいだな」
「あー……えーと、まぁ腐れ縁なんだよ、ただの」
「とりあえず、帰るか」
「そうなんだよね……もはやここにいる意味って掃除の時間くらいだし」
 その掃除だって、掃除場所によってはほとんどしなくてもいい――厳密に言えばやらなきゃいけないけれど、チェックが甘いことが多いのでいなくてもバレない――こともある。そうと決まれば今日はもう帰ろう、そう思っているとなぜか立ち上がってゆっくりとことらへと歩いてきたローくんが私のバッグをひょいっと持ち上げた。
 何が起きたのだろう。目の前の現実を処理するのに時間がかかっている。バグってフリーズしたみたいに、ただローくんが持ち上げた自分のバックを見ていた。
「……?」
「さっさと行くぞ」
「え?」
「腹減ったから、ファミレス」
 腹減った、ファミレス、行く。停止していた脳の機能がぬるんと復旧した。いやいや、お腹が減ったのは昼休みに寝ていたからでしょう? と言ってやりたかったけれど、それよりなぜローくんが私のバッグを持ち去るのだろう……わからない。これは盛大なドッキリか何かだろうか、無駄に教室を見回しているとローくんはお構いなしに話を進める。
「何食うんだ」
「え、食べ……いや、私さっきパン食べたよ」
「パン以外がいいんだが」
 何だこの自分勝手な主張は。そして私のバッグを持ったままローくんはドアの方へと向かう。バッグを拉致されたままなわけにはいかないので、私は慌ててローくんの背中を追った。
「っていうかさ……授業中なんだしもっとそーっとさ」
「誰も気にしちゃいねェよ。それにおまえが堂々とサボるなんて誰も想像できねェだろう?」
 まぁ確かに、と思ったけれどそういった問題ではない。問題なのは今の状況、ローくんとふたりだということだ。ローくんがサボってファミレスに行くのに私を巻き込む理由がどうしてもわからない。
「あのさ、キッド達とか、あのよく来る先輩達と行けばいいんじゃないの?」
 そう、一番の疑問はこれだ。どうして今から最悪の世代のA組代表とおサボりしないといけないのか。厄介事に巻き込まれでもしたら面倒なことこの上ない。ただでさえ私はキッドと幼なじみという理由などから穏やかな学校生活を送れているか怪しいというのに、これ以上ややこしくなっても……って、そういえば今日のお昼休みにわざわざローくんに話しかけたのは私だな。私が悪いのかな、純粋に心配になっての行動だったんだけれど、あれが悪いのかな。
 そんなことを考えているうちに私達は裏門を出ていた。まだ学業が行われている校舎を眺めながら歩くという行為はなんだかソワソワする。学校の近所のパン屋さんからは甘くて美味しそうな小麦の香りが漂っている。もちろん、まだ授業中なのでパン屋に学生の姿はないし、そもそも私達以外に歩いていない。落ち着かない。落ち着かない原因はおサボりと、いつも通らない裏門からの景色もあるけれど、何より一緒に歩いているのがローくんだからだと思う。
「さて……」
「え、私の質問の答えは?」
「おまえ、ユースタス屋のことは何とも思っていないのか?」
 歩きながらそう質問してきたローくん。何とも、というその意味がわかってしまって、私は今日何度目かのため息をお腹から盛大に吐き出した。ローくんからとはいえ、その手の質問は正直飽き飽きしているのだ。
「早く彼女でも作って落ち着いてくれ、って思ってるよ。キッドが嫌いなわけじゃないんだけどさ。絡み方がちょっと面倒というか……キラーみたいに少しは大人になってほしいというか、空気を読んでほしいなって。根はいい奴なんだけどね」
 家族ぐるみの付き合いだし、楽しい記憶だってある。ああ見えて優しいところもあるし、助けてくれたことだって何度もある。幼いころからのキッドとの思い出をぽつぽつと掘り起こしていると、ローくんは再び質問を投げかけてきた。
「さっさと男を作ればいいだろ。どうして作らねェんだ」
「男って、私が?」
 ローくんはそうだ、とでも言いたげに私をじぃっと見下ろす。それができたらとっくに作っている。私だって一応、彼氏が欲しい願望はある。周りが彼氏持ちだらけの時期は落ち込むこともあるし、過去の失恋を思い出してへこんだりもする。けれど、私がこの高校で彼氏を作るのは中々困難なのではと感じているところだ。
「そりゃ、作れたらとっくに作ってマス。ローくんだって、別れてから結構たつんでしょ? 今は彼女、いないの?」
 6人の恋愛事情はすぐさま学年中に広まるし、キッドから聞くこともあるので私もローくんの恋愛事情は多少知っている。確かローくんの元カノさんは卒業した先輩で、ロングヘアが印象的なとてもキレイな人だった記憶がある。それにしたって、会話の流れからとはいえ思い切った質問をローくんにぶち込んだような気がした。
「気になる奴ならいる」
「え!! そうなの!? また話題になりそうだね」
「あァ、爆睡してダチに選択授業置いてかれたやつ」
「へ」
「ユースタス屋をアレ呼ばわりできる女」
「……?」
「バーカ」
「は!? えっ!?」
「いいから行くぞ。早くポテトが食いてェんだ……ちんたらしてんな」
 ローくんは視線を前へと向けたままスタスタと歩いて行く。爆睡して友達に放置された経験をついさっきしたばかりだし、キッドをアレと呼べるのは私かボニーくらいだと言っていた。

 私の解釈ではローくんの気になる人は私、ということになる。私がぶち込んだ質問は爆弾になってローくんから打ち返された。"好きな人"ではなくて"気になる奴"というところが、なんだかリアルに感じてしまう。もしもローくんの発言が本当だとして、どうして今日、このタイミングでわざわざそれを私に――
 ぽかぽか陽気に誘われるようにして珍しく私から話しかけたからなのか、たまたま誰もいない教室で爆睡していたからか。ローくんもこんなに突然、あっさり口にするなんて……やっぱり、おかしいよね。からかわれているだけな気がしてきた。友人も言っていたけれど、ローくんは見た目も大人びていてカッコいい人ではある。私も、モデルになれるのではないかと思ってはいた。そんな人物に告白まがいのようなセリフを言われたら勘違いしてしまう、ドキリとしてしまう。けれど嬉しい気持ち以上に、いろいろな意味で大変なことになるであろう予感のほうが上回る。気になるのだという理由もまるでわからないし。「からかってるんだよね?」なんて聞き返すタイミングもとっくに逃してしまっていて、この件に関してはこれ以上何も突っ込めなかった。

 ファミレスに着いてすぐ、ドリンクバーと山盛りポテトフライが注文された。そこから数時間、終始ローくんのペースで会話のやり取りをし、やけにしょっぱく感じるポテトをひたすら頬張り、友人たちからの連絡をどう返そうか頭を悩ませた。気づけば勝手にメッセージアプリの連絡先も登録されていた。本当に人生ってやつはどこでどうなるかわからない。急にベリーハードモードになった気がする。
 最悪の生徒のひとり、キッドの友人……悪友かもしれないトラファルガー・ローくん。どうかお手柔らかにお願いしたい所存です。

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