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 大好きなBGMを聞き、心の中でこっそりとリズムを取り、カッコよくギターソロを決めているいつかの自分を想像しながら今日も元気に業務に励んでおります。
 現状の私は自身のバンドのことやユースタスさんに持ちかけられたサプライズの件で脳のキャパシティーの大半を使用している。考えることが多すぎて、ローさんをガチガチに意識してしまう状況は回避しているように思う。時々、素でチキン事件のことを思い出して悶々とすることもあるし、相変わらずローさんはぶっ込んでくることもあるけれど違和感なく接することはできている……はずだ。

「そういや、来るもんだと思って聞いてなかったんだが、来週のライブ1人か? ナミ屋は?」
「来週……Heart企画のイベントですよね?」
「あァ」

 そしてついに来週に迫ったHeart企画のライブについての話題になった。自然に対応できるようにイメトレはしっかりした。当たり前のように参加することになっているのはとても嬉しく思う反面、今回は嘘をつかねばならないので心苦しくもある。
 
「あの、実はその日、どうしても外せない用事ができてしまいして……」
「……そうだったか。そうか」

 本当に僅かにだけれど、眉がピクリと動いて表情が曇ったのが見て取れた。声のトーンも心なしか下がった気もする。罪悪感が半端ない。でも、私は行かないとは言っていないし、当日のサプライズのためには今は心を鬼にするしかない。ただ、事実私は今ウソをついてるわけで、目の前には少しがっかりした様子のローさんがいる。予想外だ。これはしっかりフォローしておかなければ……だけど何をどうしたらフォローになるかわからない。

「あの、私もですね、すっごい楽しみにしてるんです。してるんですけど、あのですね」
「ま、これが最後の企画って訳でもねェからな」

 えぇ……ローさんがあからさまにしょんぼりしている。こんな気持ちにさせてしまうのなら、今すぐにでもすべてを話してしまいたい。ローさん達をあっと言わせるスペシャルなサプライズのためなんです、と。しかしここはぐっと我慢、我慢だ。歯がゆい……心の中でじたばたと派手に暴れ回った。
 そんな私の胸中を知ってか知らずか、ローさんが「じゃあ今日晩飯、付き合え」と畳み掛けてきた。今日は月曜日、最初で最後のユースタスさんたちとのスタジオ練習の日なのだ。どうして今日なんだ。しかも私ってば今までほぼ全部、仕事後のご飯断ったことないんですよね。それも手伝って断りづらさがMAXである。もう泣いちゃいそう。

「え〜っと、今日はその……ですね」
「……そうだよな、お前にも色々あるよな」
「ローさん!! 本っっ当にごめんなさい!!」

 勢いよく頭を下げる。ローさんのそんな顔見たくない。ライブでもローさんにびっくりしてほしくて、喜んでもらいたくて、なのに。どうして今こんな顔をさせてしまっているんだろう。
 
「何でそんなに必死に謝るんだ、お前は何も悪くねェだろう」
「いやもう私が悪いんです!!……なので、その、埋め合わせと言っては何ですが、また何かおやつを作ってきたら食べてくれますか?」
「……仕方ねェな」

 笑ってほしい。とっさに思い付いたのは美味しいもので少しでも笑顔になってくれたら、なんてことくらいだった。それでもローさんが優しく微笑みかけてくれて、少しだけホッとしたのと同時に、絶対にこのサプライズを成功させなくちゃと私は気合いを入れ直した。



 そして迎えたライブ当日。私のテンションはすでに最高潮である。ほぼ寝ていない。フルスロットル。今日までローさんに隠し切るというミッションも無事に達成したので、あとはこの後リハで会ったときにユースタスさん達のお手伝いであるとごまかせばオーケー。
 ギターを背負った私はウッキウキでユースタスさんとの待ち合わせ場所であるライブハウス横のコインパーキングへ。到着してソワソワすること数分でユースタスさん達が乗った車がパーキングへと入ってきた。

「おうユメ! 早いな!」
「ユースタスさん、おはよーございます!!」
「あれからちゃんと特訓したんだろうな?」
「はい! もちろん! 見ててください、ローさん達だけじゃなくて観客の皆さんもうならせてやります!……た、たぶん」
「ハハッ! そうかそうか」

 そう、スタジオ練習の日はユースタスさんに散々ダメ出しをされてしまったのだ。キラーさんが優しくフォローしてくれたけど、ユースタスさん達はもちろん、今日の企画に来る人全てを納得させるために猛特訓したのである。
 ライブハウスへ入り手続きやらなんやらをするユースタスさん達をちょっとだけ離れた所から眺める。スタッフとしてここへ入るのはもちろん初めてのことなので、いくらテンションがマックスな私でも少々挙動不審になってしまうのは仕方がないだろう。
 
「ほらよ、お前にこれをやろう」
「こ、これは!! 憧れのバックステージパスではありませんか!!」

 受付を済ませたのだろう。私の方へと戻ってきたユースタスさんから手渡されたステッカーにはバンド名、supernova explosionと記入されていた。

「おおお、これ貼るの憧れだったんですよ〜」
「お前またバンド組んだんだろう? 自分でライブすりゃいい話じゃねェか」
「今、コピーして練習しながら曲も作ってるんです! そのうちやれるといいんですけど」

 ライブへの道のりはなかなか長くて険しいだろうなぁ。そう思いながらさっそくステッカーを左腕にぺたりと貼った。これだけでなんだか強くなった気分だ。ユースタスさんに「こんな感じです?」と確認すると、位置がおかしかったのかなんなのか、鼻でフンッと笑われた。

「なぜ! 笑うんですか!」
「いやまァこっちの話だから気にすんな。とりあえずワイヤーが上手くできたらビールおごるって言ってたぞ」
「お、おおう……それはしっかりやらないとですね、ライブ後のビールはそれはもう最の高ですからね!」

 笑われたことはもうどうでもいいとして、とにかく絶対にバシッと決めてやるんだと意気込んでいると、話を聞いていたであろうキラーさんが近づいてきて「そうでなくてもちゃんとやれよ」と背負っていたギターケースをボスッと叩いた。ええ。ビール関係なく全力で、魂で弾きますとも。



 そんなこんなで狭い楽屋をかき分けるように進みながら裏の通路へと荷物を運んでいると、会わないわけがない人物、今日の企画の主催者である推しバンドHeartのギタリストの声が聞こえてきた。誰かと話しているのだろう、しばらくしてから背後から「おい」と声を掛けられた。

「……やっぱりユメじゃねェか、お前何でここに」
「ローさん! おはようございます!」
「まさか、用事ってこれか?」

 ローさんが少し目を見開きながら私の左腕のステッカーを指差した。「ユースタス屋んところの……?」といぶかしげな表情をしたので「今日はちょっと物販とかお手伝いを色々と頼まれていまして……サプライズってやつです。驚いたでしょう?」とニヤリと顔をキメながら全力でごまかす。

「手伝いって……ギター持参でか?」

 あっ、私はまだしっかりとギターを持ったままだった。そこを突っ込まれたときのことを何も考えていなかった。はてさて、どうしたものか。視線をゆっくりとローさんからそらすと丁度キラーさんと目が合った。大丈夫、キラーさんならきっと、この私の無言のヘルプに気づいてくれるはずだ。

「あぁローさん、キッドが使わせてもらうんだ。最近ユメがそのモデル買ったんだって小耳に挟んで、ライブで試したいらしくてな」
「……そうか」

 ありがとうございますキラーさん。正直ユースタスさんじゃなくってよかった。失礼だけどたぶん、ローさんの中ではキラーさんのほうが信頼度が高い気がするから、効果は高いはずだ。ナイスフォローです。感謝。
 それでも何やら不満そうにローさんは私を見てくる。そりゃ用事があるって言ってた企画当日に別バンドのスタッフで来ていたら何で隠してたんだって思われても当然。でも一応、行けない、とは言っていないのだ。

「黙っててすみません! でも私、用事がある、としか言ってないですよ!」
「……あの言い方じゃ来れないって言ってるようなもんだろ。ったく、だからあんなに必死に謝ってたのか。一体何企んでんだかな」
「何も企んでませんよ〜、ただローさんをビックリドッキリさせたかっただけですって! ですよねキラーさん!」

 へらりと笑いながらキラーさんに向けて同意を求めると「まァそういうことだから、これが原因でケンカにでもなってたんならすまなかったな」と、なんだかちょっと私達をからかったような物言いでローさんの肩をポンポンと叩いてから私のギターを受け取った。
 今日は逆リハ、出演順とは逆の順番でリハーサルを行う。なのでもうHeartのリハの時間は迫っていた。「ま、手伝いっつってもどうせ始まるまでは暇だろ? リハでも見てろ」と呟きながら私のおでこにデコピンをかましたローさんは準備へと向かって行った。ちなみにユースタスさん達のリハはその次だ。いつもより控えめなものの、ちりちりとするおでこを押さえながら私はキラーさんに感謝の気持ちをこれでもかと込めてペコリと頭を下げた。

「はぁ〜、危なかったです。ありがとうございますキラーさん」
「ま、お前は後は本番を待つだけだ。リハできねェからな」
「あっ!! そっか私がリハしたらバレちゃうのか!!」

 そうだった。私はぶっつけ本番なのだ。急に緊張してきた。でも普段見ることのできないローさん達Heartのリハーサルを見れて本当によだれが出そうだった。出そうだっただけで出してはいない。そしてその後続けてユースタスさん達が、ユースタスさんが私のギターでリハをする姿を眺める。あああああ。忘れていた緊張がぶり返してきた。私、今日、大丈夫なんでしょうか。

 そんなこんなで結局ガチガチな私を、スパエクの皆さんは開場まで時間があるからと近くのおいしいバーガー屋さんに連れて行ってくれたりでどうにかこうにか緊張をほぐそうとしてくれた。見た目は派手で目立つし、知り合いじゃなかったら怖いけど本当にめっちゃいい人達。さすがローさんの仲良しバンドさんだなぁと、あらためて感謝せずにはいられなかった。



 楽しい時間はどうして決まってこんなにあっという間にすぎてしまうんだろう。開演したのはついさっきだったはずなのに、もう次はスパエクの番だ。私は始まるまで物販ブースを任されたのでそこで店番をしつつ、同じく隣でHeartの物販の番人をしていたペンギンさんと今日の出演バンドについての話をしていた。
 Heart企画というだけあってカッコいい音楽をする人達ばかりだった。中でも印象に残ったのは以前遠征したときに対バンしたのだというヨサクとジョニーという二人組。打ち込みにギターとベースを合わせたスタイルで会場を盛り上げていた。確かいつだったかローさん達と対バンしていたスクラッチメン・アプーさんも打ち込みを使ったインストのソロバンドだった。
 打ち込み。色々勉強して打ち込みができるようになったらスーパーな私になってしまうかもしれないなぁと考えつつ、そっち方面はマスターさんのほうが向いてそうというか得意そうなので今度話してみようと思った。
 照明が落ちて薄暗くなる。私とペンギンさんはブースから抜け出してフロアへと向かった。すぐにステージに行けるように、移動しても気づかれにくいように少し後方の通路側に陣取る。
 今日もまた疾走感のある楽曲から深みのヤバい曲まで披露してくれるスパエク。間違いない、ヒートさんが加入してからさらに私好みになった感があってめちゃくちゃ興奮する。本来ならがっつりとビールを飲みながら楽しみたいところだけど、演奏が控えている。かといってまったく飲まないとまた怪しまれてしまうのでHeartの皆さんとは1杯だけ飲んだ。
 そうこうしているうちに5曲目が終わって、ステージをパッとライトが照らした。ユースタスさんがマイクを手に話し始める。

「今日はHeart企画に呼んでもらって感謝してるぜ!」

 その言葉を合図に私はこっそりとフロアを抜け出して裏に回る。大きなライブハウスではないのであっという間にステージ裏へと到着。心臓をバクバクさせながら袖で待機、なんだけど、私の心臓は今にも大爆発を起こしそうである。初めてライブをした時とは緊張度が違いすぎる。なんてったってさっきまで、私はこのステージの向こう側にいたのだ。

「……ってなわけで、礼も兼ねて最後の1曲は、お前らの尊敬するバンドの曲をやるぜ! でもって、今日はスペシャルゲストがいるんだ」

 ちらりとこちらを見たユースタスさんに出て来いと目で訴えられる。ついに来てしまった。ふぅぅぅぅ〜〜〜と大きく息を吐き出す。私は手櫛で前髪を整えてからよし! と気合を入れて眩しい眩しいステージへと踏み出した。

「……!? ありゃぁユメちゃん?」
「手伝いって、そういうこと!」
「……やっぱりユメが弾くんじゃねェか」
「ずーっとあのギターだけ立て掛けてあって意味深だったもんなァ」

 フロアからいくつもの声が聞こえてくる。驚いて顔を見合わせているサンジさんとペンギンさんや、「やっぱり隠してたんじゃねェか、まったく」とでも言いたげなまったく顔をしながら腕を組んでこちらを見ているローさん、お腹の調子もよさそうで元気よく手を振ってくれるシャチさんの姿が見えた。ありがたいことにスパエクのお客さんも拍手してくれている。とりあえず第一段階は無事にクリアしたでしょう。私はスタンドからギターを取って肩にかけた。今日の相棒はなんだかずっしりと重みを感じる。

「よっ! ユメちゃーん!!!」
「派手にやったれー!」
「キッドナイスー!!」

 歓声がサンジさん達だけではなく、何度か通ううちに顔見知りになったライブハウスのスタッフさん達からも飛んできてちょっとビックリしたけれど、悪い気はしない。むしろ調子のいい私はあっという間にノリノリである。

「いくぞユメ、準備はいいか?」
「はい!」

 思えばローさんの前でステージに立つのはこれが初めてなんだ。初めてのライブではナミとユースタスさんが私を見守ってくれていたけど、今目の前にはHeartのメンバーがいる。不思議な気分だなと思っているとローさんと目が合ってしまって、私は照れや緊張をごまかすようにへへっと笑った。喜んでくれるといいな、そう思いながらユースタスさんがカウントを取った声がして演奏はスタートした。
 私はリズムを刻み続ける。やっぱりスタジオとは違うよなぁと実感する。4人とステージで一体となって演奏する心地よさに思わず歌を口ずさんでいた。
 ラストは全員でタイミングを合わせ最後の音を響かせる。フロアからも拍手と歓声が聞こえてきてチラリとユースタスさんを見るとこちらに向けてVサインをしてきたので私もすぐにピースし返した。やった、1曲だけだけどローさん達の前で私、やりきったんだ。

「今日のサポートギターユメ! こいつのバンド、COUNTER HAZARDもそのうちライブ予定だからな!! お前ら見に行けよ!」

 ユースタスさんの声で現実に引き戻された。なんだかうちのバンドを宣伝してくれたような気がしたけれどそれよりも、こんな最高なサプライズを考えてくれたユースタスさん達にも、それを見守ってくれていたここにいる人達にも感謝を伝えなければと私はフロアに向かって深く頭を下げてから「ありがとうございます! ユメでしたー!」ピックを持ったままの右腕を大きく上げた。
 ローさん達も私に向けて手を上げたりリアクションくれたりしているのがわかってもう一度頭を下げる。そして後ろに振り向いてユースタスさん達にも「本当にありがとうございます!」と声をかけるとワイヤーさんが「約束だ。ビールおごってやる。そうと決まればさっさと撤収だ」と私に向けて手をパタパタと払うように動かした。つまりそれは、合格点をもらえたということなんだろうか。だとしたらこんなに嬉しいことはない。
 なんとも言葉にできない喜びを噛み締めながらギターを抱えてステージ裏にはけようとしていると「しょうがねェからおれもおごってやるよ」とユースタスさんの声がした。顔をあげるとキラーさんもヒートさんも私を見て何やらうなずいていた。
 うまく言葉にできないけど、私は今、今日の企画者のHeartのみなさんを差し置いて一番の幸せ者なんじゃないだろうか。そんなことを思いながら片付けを済ませ楽屋へ荷物を置きに行こうとしていると、本日のイベントのトリであるローさん達が準備のためにやってきた。

「ユメぢゃんっ!! おれは今! 猛烈に!!」

 サンジさんが常人にはマネできないであろう凄まじいトルネードのような動きと勢いで私の前まで駆け寄ってきて「感動! しているよォ!!」と声を上げて左手をガシッと握ってきた。私も嬉しくって「そう言ってもらえて私も嬉しいです!」と私の手を握るサンジさんの両手を覆うように空いたもう片方の手をかぶせた。その瞬間、私の首元が何やらぎゅっとなって思わず「ぐえっ」としょうもない声を出してしまった。
 
「ただでさえ狭いんだ、通路をふさぐな」

 私はすぐに振り返る。声の正体はローさんで、カエルのような声を出してしまったのはローさんが私の首根っこを引っ張ったからでした。

「ローさん! 一歩間違えば殺人未遂です!」
「おれがそんなヘマすると思うか」
「あ〜、そうですね、しないですね。たぶん」

 ユースタスさん達はそんな私達の横を「お、お疲れ〜」とか「今日の打ち上げは盛り上がりそうだなァ!」などと言葉少なめに、でもなんだか妙に腹立たしい、ニヤついたように見える顔をしながら通りすぎて行く。
 そういえば……サンジさんの声がずいぶん遠くなったなと思いながらこの見慣れない通路をきょろきょろと見回すと、サンジさんはシャチさんに引きずられるようにして奥の方へと消えていくところだった。もう一度ローさんへ視線を戻す。ローさんはまたさっきのまったく顔のような、何か言いたげな表情だ。でもすぐに私の頭に手を乗せるとぐりぐりとペットを愛でるかのように何往復かさせた。
 私の脳内には数多の感情が押し寄せる。どう反応すればいいのだろうか、ローさんは一体何を思ってこの行動に出たのか。普通こんなことされたらなんていうか、あの日のこととか思い出すじゃん!! とか、かろうじて持ってる乙女心を揺さぶってくるじゃん!! などと叫びそうになった。けど、あまりにも過熱しすぎたのか色々と処理が追い付かなくなったらしく、プスンと音を立てて頭が真っ白になった。
 えっと、私は今何をしていたんでしたっけ……そうでしたローさんの前で初めて演奏したんでした。「あ〜、えっと、どうでしたでしょうか」と、当たり障りのない会話を切り出すことに成功した。けれどちゃんとローさんを見ることができない。壁に乱雑に、でもびっしりと貼られている歴代の出演者のフライヤーやステッカーに視線を向ける。

「うまく言えねェが、まァよくやったんじゃねェか。そうだな……打ち上げ代くらいは出してやる」
「わぁ、私この後実質飲み放題」

 そう、フロアに戻ればワイヤーさんとキッドさんからビールをごちそうしてもらえるし、Heartがトリだからそのまま打ち上げに入るわけで、ほぼ飲み放題。万歳。何度も言うけど今一番幸せな思いをしているのは私なのではないでしょうか。
 ひょこっと顔を出したペンギンさんに催促されたローさんは私の頭をぽすんと叩くとステージ裏の控え室へと向かって行った。
 フロアに戻ってビールをゲットすべくユースタスさん達のところへと向かうと「楽屋にギター置きに行くだけでずいぶん時間かかったなァ?」とニヤニヤされた。言うほど長時間ではなかったはずだけど、それはたぶん私がローさんと立ち話をしてたからなわけでして……あれ。待って、もしかしてバレバレなの? 私のこの気持ちってだだ漏れなんですか? だからそんな生暖かい感じなんですか?
 もちろんユースタスさん達にそんなこと聞けるはずもない。気づかなかったことにしよう……そう思いながら私はワイヤーさんから頂いた、今日の勲章とも言える金色の飲み物を勢いよく飲み干した。

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