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あの日から彼は公園に来なくなった
数日経ったある夜。
無性に公園に行きたくなった
行かなきゃいけない気がして。
走って公園に向かうと
白いベンチ上黒い影がひとつ。
彼だ。
近寄って声をかける
「冬生さん」
振り返った彼は前と比べて
痩せたように思えた
「雪実くん…」
「どうしてここにいるんですか」
こんな時間に、と付けたす
「ああ、病院から抜け出して来ちゃった」
それってダメなんじゃないんですか、と
言おうとした瞬間、彼の口が言葉を紡ぎ
いうことは出来なかった。
「ね、雪実くん。歌を聴いて欲しいんだ」
忘れちゃってるかな?やっと完成したんだ。藍色恋歌。
忘れるわけがない。
僕と彼を出会わせてくれた歌だ
「もちろんです」
彼が静かに歌い始めた
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