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彼と出会って一ヶ月と数日
彼がこんなことを言ってきた

「前にここで歌ってた、藍色恋歌って歌。実はまだ未完成なんだよね」

「え、そうなんですか?」

「うん、だから。せめて雪実くんとお別れするまでには完成させようと思ってさ」


そんな言葉に喉の奥を締め付けられたような苦しい気持ちになった。この感情はなんなのだろう。


お別れ。この言葉が指すのは彼の死という意味だ。

「………そうですか」

「え?あ、いや。そんな重たい話じゃなくて…」

暫く黙り込む僕を見て何を思ったのか突然
ベンチについていた手を握られた

冬生さんを見る
切なくて儚い瞳が僕を捉える

そんな彼は静かに目を閉じた
自分の頬に濡れた柔らかい感触と
微かなリップ音がきこえる。

その後、彼は一瞬、瞳を開き
目元だけで笑うと
今度は僕の唇を奪った。
 
男同士のそれに不思議と嫌悪感は抱かなかった。

触れ合っている唇が離れていった後

「雪実くんの瞳を見ているとなんだか悲しくなるよ」

「…どういう意味ですか?」

「生きてるのに死んでいるみたいだ」

そんな言葉が僕を射抜く

正論だな。と心の中でつぶやいた。

「いいんじゃないかな、もっと生きることに貪欲になっても」

彼が言うと妙にリアルに感じるのは
彼の人生がそういう人生だったからであろう。 

僕は無言だった

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