舞台の園
(ベテラン舞台役者×新人くん)
西内蛍(にしうちほたる)。
これは僕の名前であり
僕は都内のとある劇団の舞台俳優をやっている。
今回初めて舞台に立つ。
元々は漫画から始まったミュージカルだ
昔から役を演じるのが好きだった。
でもまぁ、舞台では脇役。
あまり主要人物ではない。
僕なんてまだまだぺーぺーだしなぁ
そんな僕にはとてもとても憧れる先輩がいて
「あ!美空せんぱい!!おはようございます!」
「お、けいちゃん。お早う。今日は千秋楽だね。頑張ろう。」
呉田美空(くれたみそら)先輩
この人は今回のミュージカルの主役を務めている
顔はもちろんだけど
演技がずば抜けていて
見る人を翻弄する
なんというか人を惹きつける引力が凄い
「はい!…ッ、それと僕はホタルです」
「はは、分かってるよ。からかっただけだよ」
*
それからの事、あっという間に千秋楽は終わってしまった。幕が下がるまで「有難うございました!」と笑いながら手を振る。下がり終わってもなお、幕越しに聞こえるお客さんの優しい言葉にポロポロと涙が溢れた。
「おいおい、泣くなよ蛍〜」
「泣き虫なやっちゃなぁ〜、まぁこれで最後やしなぁ」
「うっ…」
そう言いながら、同級の佐野と宮地が二人同時に頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
「だって、うぅ……ズッ」
これで終わりなんだ
もうこのメンバーで集まって同じ公演をすることは二度とない。
次世代が今、猛烈に稽古をしていて次は彼らの彼ららしいミュージカルが始まる。僕達は卒業。
世代交代。分かっていたはず。
だけど涙が止まらない。
もっとやりたかったこのメンバーで
たくさんの共演者さん達と携わって絆も深まった
「いやですぅ……グッス」
「なになに、どうした?」
そう聞こえたのは美空せんぱいの声で
宮地がなにかを先輩に話した
どうせ面白がって馬鹿にしてるんだろうなあ
「うぅ」
それでも涙は止まってくれなくて
「はぁ、可愛い奴だな」
「ヒック、ぅ、ぇ…?」
「ちょっと、話してくる。打上げは遅れて行くから、みんなにも言っておいてね」
二人に言い放ち、
腕を引かれたまま連れて行かれたのは使われてない舞台のセットの置き場で少し埃っぽかった
舞台の時のキャラの衣装のまま。
「けいちゃん、もう泣かないの」
「はぃ…ごめんなさっ」
チュッ
唇に感じた熱と
ふわりと薫った先輩の匂い
「え………………?」
「お、泣き止んだけいちゃん?いいこいいこ」
「あ、の…きすしッ」
「んーチュッ、…もう一回」