9話(理想郷:終)
先生は語った
あの世界の核はひとりの少女
虐待を受けて苦しむ親友を救うため、自らの命を犠牲に「ネット」という拡散力を使い精神世界を生み出した
「マーリン」はアーサー王を導いた魔術師、それになれたらと名乗ったのだと
最初は本当に「せめて夢の中だけでも」と花が溢れる世界で来る人々の苦しみを聞いていた
しかし元はひとりの少女
何度も何度も苦しみを引き受け、どんどん「夢の中だけでも」から「夢の中で生きていればいい」に変質していき狂っていった
親友である「彼女」が会いにいったが既に別人のように変わり果てていて話にならなかったと
幻を見せたのも由行の記憶の中にある「家族に捨てられた記憶」を見て『夢の中で生きればいい』と「大人(先生達)」を「家族」に見せて夢の中に閉じ込めようとしていたらしい(先生達から見ると僕が先生達を認識できず怯えていたんだとか)
以蔵さんの攻撃が彼女に届いたのは同じ「霊」だったから
先生の魔眼で破壊したのは変質した願いと彼女を繋ぐ「縁」だったと(ちなみに彼女と願いを同一視してしまうと両方破壊してしまうところだったと、危ない…)
ちなみに先生が懐から取り出して渡したのは「キーホルダーの片割れ」
親友の子から預かったそうだ
「親友の子から『彼女を楽にしてあげてください』って伝言頼まれて。届いて良かったよ」
目の前にカットされたスイカが積まれていく
せっせと箸で種を取り出し食べる
うーん、あまーい
「おいしい?」
『おいしい!』
今回の依頼人が沢山スイカをくれたので先生がブロック状にカットしてくれる
以蔵さんは2、3個摘まんで今は寝ている(というか電池切れしている)
「眠っていた子達は皆目覚めたって。良かったね」
『良かったです』
先生のデスクには手紙に混じって小切手が置かれている
結構な金額だったので驚いたが先生は「色付けてくれたね」で終わりだった
「彼女が蒔いた種はいつか芽吹いて彼等を救うだろう。まさに聖女だな」
『ところで先生はまた出かけるんですか?』
「明日には出るけど来週には戻るよ。安心して」
『はい』
夢を見る
「やあ、初めまして」
不思議な男の出てくる夢
「私はマーリン、君は?」
杖を持った男は花に埋もれて眠る僕に語りかける
「由行!いい名前だね」
返事なんてしていないのに
彼は語る
「素晴らしい夢をお見せしよう」
僕は目覚めない
彼は僕の髪に花を差すのだ
「綺麗だよ」
[ 12/33 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]