ローランのリボンのおはなし。


とある休日。オレは、カフェをハシゴしながら、フラフラと街をあるいていた。

「はぁーいそこのマドモアゼール」

聞き覚えのある声が後ろから降ってくる。
眉をしかめて振り返ると、そこにいたのはチームメイトであるジュリアンだった。

「…あぁん?」
「やっぱりローランだった。君ってそうやってると本当に女の子みたいだねぇ?」

何のことか分からなくて言葉に詰ってしまう。
ジュリアンが言っているのは、おそらくオレの髪型のことだろう。
いつもは適当に結わいているが、今日は休み。面倒だったので、軽く櫛を通しただけにしていた。
…そんなに女っぽく見えるだろうか。少し悩んで、無言で踵を返す。

「あ、あ、ちょっと待って、ほら、そのまま。」

ジュリアンはオレの前に回り込むと、屈みこんで何かをしている。
それが終わるまでの間、次のカフェでは何を飲もうか、
などとどうでもいいことを考えていると、
眩ゆいジョンブリアンの癖っ毛が視界をちらついた。

ふわり、とてもいいかおりがした。
それが気に入らなくて、なんとなく、顔をそらした。

「はいできた!うん、やっぱりこっちのほうがさっぱりしてていいかな。
うんうんカワイイ。じゃ、サリュー☆」

ぱ、と顔を上げたと思ったら、ひとりで勝手に納得して、ひとりで勝手にしゃべって
さっさと歩き去っていってしまった。まったく、忙しいやつだ。どうせデートだろうけど。

それにしてもいったい何を? 考えながら、ふと、ショーウィンドウの前で立ち止まる。
そこには、きれいなグリシーヌのリボンでゆるく髪を結っているオレの姿が写っていた。

「……ムカつく。」


―――翌日。
いつもの練習場。ジュリアンはオレを見るなり口を開く。

「ローラン!そのリb…むぐ」

余計なことを言われる前に、手で思いっきり口をふさいだ。

「他にいいのがなかっただけ、それだけだからな」

口早にそう告げると、急いで水飲み場へ向かう。
顔があつい。とても今、見せられる顔をしていない…と、思う。

「やっぱり、ローランってかわいいなあ。」

水飲み場を後にして、みんなと合流する。いつもの練習が始まる。
少しだけ、走りやすい気がするのは……きっと、気のせいだろう。



2011.3.1.
ジョンブリアン=仏語で「輝く黄色」という意味。
グリシーヌ:むらさきいろのはな。
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