ザッザッザッ
規則正しい落ち葉を掃く音。赤や黄色と色づいていた木も、もうほとんどの葉が落ちて寒々しい風景に変わりつつある。
「あっ、斎藤さん!」
掃除をしていた千鶴の目に浅葱色の羽織りを着た斎藤の姿が映る。
「おかえりなさい」
駆け寄って来る千鶴に、斎藤は表情が自然と柔らかくなっていることをまだ気づいていない。そしてその感情が何なのかもわかっていない。
「ただいま」
「巡察ご苦労様です。今温かいお茶を淹れてきますね」
そう言って返事も待たず、勝手場へと走って行った。
部屋で待っていると、お盆に二つお茶を乗せて入って来る。そうして受けとったお茶を飲む二人だが、どちらも口を開かず沈黙が流れる。
斎藤はふと思う。自分と一緒にお茶を飲んで、楽しいのかと。
「千鶴」
「何でしょうか?」
「俺とお茶をして楽しいか?」
「楽しいと言うより、斎藤さんといると落ち着くんです」
その笑顔には嘘等なく、嬉しいやら恥ずかしいやらで、斎藤は耳まで真っ赤にする。
「もしかして迷惑でしたか…?」
「そういうわけではない」
「よかった…」
「千鶴とお茶を飲むのは、いい息抜きになっている。ありがとう」
斎藤がそう言えば、次は千鶴が真っ赤になる番。二人の顔は真っ赤で、視線は彷徨ったまま。そして、二人の間にまた沈黙が落ちる。
「「その…」」
「……」
「…ふふっ」
驚くぐらい口を開いたのは同時で、お互い顔を見合わせる。斎藤はばつが悪いといった感じに眉を寄せ、千鶴はクスクスと笑う。
「斎藤さん、お先にどうぞ」
「その…だな…、また一緒にお茶を……」
「………」
「千鶴が忙しいなら…」
「いえ、私も同じことを言おうとしていたので驚いたんです。…あの、斎藤さんが迷惑でなければご一緒させて下さい」
「……ああ」
まだ踏み出せない一歩
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