心地好い微睡みの中から目を開けると、珍しく千鶴の寝顔があった。
枕元に置いている携帯を取り、ディスプレイを見てみると九時前。常に自分より先に起きて朝ご飯を作っているはずの千鶴が、まだ自分の腕の中で静かに寝ている。千鶴にしては本当に珍しいことだ。
別にそれが悪いわけではないし、こういうゆっくりとした朝も悪くない。
「千鶴、起きろ」
「ん……」
自分と同じ色の髪に手を通す。同じ色でも全然触り心地が違うその髪を掬い上げると、指の隙間からさらさらとこぼれ落ちる。
「千鶴、」
もう一度呼んで見るが起きる気配がない。額に口づけを落とすとくすぐったそうにし、僅かに瞼を持ち上げる。
「と…しぞ…うさん…」
少し抱きしめている腕に力をいれると、擦り寄ってくる千鶴。と、そこであることに気がつく。
「…おまえ、もしかして熱あるんじゃねぇか?」
さっきは気づかなかったが、強く抱きしめるといつもより体温が高いのがわかる。頬を少し朱がさしているところからして、多分そうだろう。それなら寝過ごしたのも合点がいく。
と、更にスリスリと自分に寄ってくる千鶴。
「としぞうさん、あったかいです…」
舌足らずな言葉と共に、抱き着く。その行動にどうしようもないぐらいの愛しさが込み上げる。
このまま一日ごろごろと過ごしたいところだが、千鶴の熱が心配だ。
「千鶴、起きて熱測れ」
「んー…まだこうしていたいです」
滅多に我が儘とかを言わない千鶴が、熱のせいもあるが可愛いことを言うんだ。思わず首を縦に振りそうになったが、そこは心を鬼にして留まる。
「風邪が酷くなったらどうすんだ」
「かぜじゃないですよー」
「熱あんのに風邪じゃなきゃ何だ?」
「にんしんしてるからですー」
「妊娠な……って、はぁ?」
今だ舌足らずな言葉で話す千鶴の口から、とんでもないことを言われた気がする。実際、衝撃的な事実を言われた。
「……いつ知ったんだ」
「せんしゅうで…す」
「先週…か。はぁ……」
千鶴のことだからいつ言おうか迷って、言えなかったんだろうことは予想がつく。
「病院は行ったのか?」
そう聞けば、首を横に振る。と言うことは、市販のやつで調べたんだな。
「次起きたら病院行くぞ。それまでは寝とけ」
額にもう一度口づけを落とすと、また眠りへと閉じかけていた瞼を落とした。
「子供……か、」
改めて口に出してみると、実感が湧いてくる。自分は本当に幸せ者だ。
「…ありがとな、千鶴」
幸せな贈り物
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