※失恋のお話。


その日がいつかやってくることはわかっていた。だって、彼女の周りには彼女が好きだと言う人がたくさんいた。その中に僕もいた。

最初は彼女の射形に惚れただけだった。でも、僕の言動でくるくると変わる彼女の表情を見て、いつしか彼女のことが好きになっていた。僕が言ったことに真っ赤になる顔も、拗ねた顔も、怒った顔も、困った顔も全部好きだったんだ。彼女の…夜久先輩の全てが好きだった。

僕はあの日、夜久先輩に想いを伝えようと思った。だって、誰かに奪われる前に自分のものにしたかったんだ。


夜久先輩が片付けて着替え終わるのを道場の入口で待ち伏せしていた。そうでもしないと、夜久先輩の周りには常に誰かがいるからだった。
と、壁に寄り掛かって待っていると、向こうから誰かがやって来るのが見えた。よく見てみると夜久先輩の幼なじみの一人。何故、と思っていると、夜久先輩が出て来てその人に手を振る。
嫌な予感がした。まさかとは思った。いや、多分信じたくなかったんだと思う。でも、その嫌な予感は当たった。

嬉しそうに駆け寄る夜久先輩。僕の存在に気づかなかったぐらい、その人しか見てないと言った感じだった。二人は手を繋ぎ、そのまま歩いて帰って行く。
夜久先輩の横顔は、僕が今まで見たことがなかった表情をしていた。それはすごく幸せそうな表情で、きっと、あの人にしか出せない夜久先輩の表情なんだなって。

結局、僕のこの想いは伝えることなく終わった。
でも伝えずに終わって、よかったのかもしれない。だって、これからも先輩後輩として夜久先輩の近くにいれるのだから。


「でも…、やっぱり悔しいな…」


それは、何でも手に入れることが出来る自信があった自分が初めて手に入れなかったものだった。









◎前サイトから。梓ごめん。

title:HENCE




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -