※二人に子供がいるお話。
「あのね、おとーさん、おかーさん」
「うん?」
「どうしたの?」
「おとーさんとおかーさんって、どうして結婚したの?」
「えっ…」
「また唐突だなぁ」
ソファーで月子が膝の上に乗せて絵本を読み聞かせていると、突然そんな質問をしてきた。
俺と同じ水色の瞳に、月子と同じふんわりとした茶色の髪をした俺達の娘。この頃の子供特有である質問攻めはよくあったが、こんな質問は初めてだった。月子なんかは、びっくりしてずっと目をぱちぱちとしている。
「ねぇ、どうしてー?」
「どうして、ってお父さんがお母さんのこと大好きだからだよ」
「おかーさんも?」
「えっ…う、うん、そうだよ」
「月子、動揺し過ぎ」
「うー…だって改めて聞かれると恥ずかしいよ」
顔を真っ赤にする月子は、今も昔も何も変わらない。こうして真っ赤になるところも、料理が出来ないところも、少し不器用だけど優しいところも全て変わらない。
「おかーさんお顔真っ赤だよー?大丈夫?」
「う、嘘…」
見上げてくる子供に頬に手を当て、眉を下げて困った顔をする。あまりにもじっと見てくるからか、月子は堪えれなくなって俺の肩に顔を付ける。子供が出来ても月子は可愛いままだなぁ。
「あっ!あとね、おとーさんはおかーさんのどこが好き?」
あーあ、月子は耳まで真っ赤だ。でも娘が期待して見てくるんだから、答えないわけにはいかない。と、月子が逃げようとするから腰に手を回して逃げられないようにする。
「好き、にどこだけとかないよ。月子の全部が好きなんだ」
「おかーさんの全部?」
「うん。ちょっとドジで抜けてるところとか、意地っ張りなところとか全部」
本当に月子のことは全部が愛しい。これは絶対変わることはない。幼い頃から好きで、やっとの思いでこの手に抱きしめることが出来た大切な存在。
「…おとーさん」
「ん?」
「わたしもそんな人…出来るかな?」
「……大切にしてくれる人、いつか出来るよ」
「そうだといいなぁ」
まだ子供だから大丈夫だなんて思ってられないんだなぁ。寂しいな、って呟いたら月子がクスクスと笑う。だって、子供の成長が自分で思ってたより早くて驚いたんだ。置いて行かれる感じで。
「ふぁ〜…」
「あ、眠くなってきた?もうこんな時間だもんね」
「うん…」
眠そうな目を擦り、大きな欠伸をする。月子が頭を撫でてやると、今にも瞼が落ちそうになっている。
「ねぇ、錫也。今日は三人で寝よう?」
「たまには三人もいいな。ほら、抱っこしてあげるからおいで」
「んー」
半分寝かけている娘を抱いて三人で寝室に行く。川の字になって寝るなんて、本当に久しぶりだ。
「もう寝ちゃったね」
「ほんとだな」
寝息をたてて眠るあどけない寝顔を見ると、自然と口元が緩む。こうやって三人で幸せにいれるのは、全部月子のお陰だと思う。そう思うと、俺は月子から沢山のものをもらっているなぁ。
「なぁ、月子」
「なあに?」
「いつもありがとう」
「…急にどうしたの?」
「月子には沢山のものをもらってるなぁ、って思ってさ」
「私こそ錫也には沢山のものをもらってるよ?いつもありがとう」
「どういたしまして。…これからもずっと一緒にいような」
「うん。ずっとだからね」
「おやすみ、月子」
瞬く星に手をそえて
◎前サイトから。
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