家事をあらかた終わらせ、ソファーに体を預ける千鶴。今は自分しかいないこの家はとても静かで、時計の針が動くカチカチという規則正しい音しか聞こえない。
その音を聞いているうちに瞼がだんだん重くなるのを感じる。無駄だとわかっていたが、抵抗してみるもやっぱり睡魔には抗えずに瞼を閉じた。
どれぐらいの時間がたったのだろうか。
何か温かいものに包まれている感覚。ふわふわと、まだ覚醒していない頭を優しく撫でる手に、また睡魔が襲って来る。必死に重たい瞼を開けようとすると、「まだ寝ててもいいよ」と言う声。
次に目を覚ました時、千鶴は誰かに抱きしめられていた。誰か、と言っても一人しかいない。その状況に慌てふためく千鶴に、クスクスと笑う声が頭の上から聞こえる。
「おはよう、千鶴」
「おはよう…ございます、総司さん。あの…、もしかしてずっと……」
「今日は仕事が簡単に片付いたからね。いつもより早く帰って来れたんだ。そしたら君は、ソファーで何も被らずにうたた寝してるんだから」
風邪をひくなぁと思ったんだよ、と笑いながら千鶴の髪を梳く。
春と言ってもまだ肌寒い日が続いている。総司が帰って来た時、千鶴は子供みたいな小さく縮こまって寝ていた。
「すみません……」
「何で謝るのさ。僕がしたくてやったことなんだから」
「ありがとうございます。では、早く夕飯の準備しますね。――きゃっ」
千鶴がそう言って総司の腕の中から出て、立ち上がりかけた時。腕を引かれ総司に後ろから抱きしめられていた。
「総司さん、夕飯の支度をしないと……」
「だーめ。千鶴はいつも頑張り過ぎだから、たまには息抜きしなきゃ」
「そんなことないですよ」
「そんなことあるんだよ」
「…総司さんは私を甘やかし過ぎです」
「僕が千鶴を甘やかしたいって思ってるからいいの。と言うより、千鶴はもっと僕に甘えてよ」
「私は十分、総司さんに甘えてますよ?」
「僕には足りないよ。僕は君の願いなら何だって叶えてあげたいんだ」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。千鶴の髪に顔を埋めると、ふわりと甘いシャンプーの匂いがした。
「じゃあ、遠慮なく言いますよ?」
「どうぞ」
「総司さんとお休みの日にお買い物へ行きたいです」
「うん」
「眠る時はぎゅっと抱きしめて下さい」
「いいよ」
「……ずっと私を離さないで下さい」
「千鶴が嫌って言っても絶対離さないから」
「そんなこと言いませんよ」
お互いの顔を見合わせ、クスクスと笑い合う。
総司が千鶴の唇にキスを落とすと、頬を少し染めて嬉しそうに笑う。
「総司さん、もう一ついいですか?」
「いくらでも言ってよ」
総司が耳を寄せると、内緒話のように話す。話が終わると、さっきよりも強く千鶴を抱きしめる。
「……絶対に叶えてあげる」
君の願いは、僕の願い
◎前サイトから。最後はご想像にお任せ。