教室に入ると目に入ったのが、月子と哉太が二人で笑い合っている姿。
月子が自分の彼女になったって言っても、哉太は幼なじみなんだから一緒にいてもおかしくない。むしろ今まではそうだったんだ。
でも、やっぱりいくら幼なじみで相手が哉太だとしても、月子の隣に俺以外の男がいるってだけで嫉妬してしまう。
「前からそうだったけど、ここまでとはなぁ……」
「何が?」
「だから…って月子!?」
「おはよ、錫也」
「あ、ああ、…おはよう」
独り言だったつもりが、月子に聞かれていたみたいだった。不思議そうな目で見てくる月子の頭を撫でると、照れ隠しからかそっぽを向く。そのまま「は、早く行こっ」と言い、哉太のところへと行ってしまった。また自分の狭い心が黒いモヤモヤでいっぱいになる。
「錫也ー?」
「…今行くよ」
「錫也、おはよう。朝からどうした?」
「哉太もおはよう。別に?何もないよ」
「本当?調子が悪いとかじゃない?錫也はすぐに我慢するからね」
「大丈ー夫。ちょっとぼーっとしてただけだから」
「それならいいけど…。調子悪くなったら、我慢しないでちゃんと言ってね?」
「ああ、ありがとな」
月子が呼ぶ声に我に返り、輪に入ると心配そうに俺を気遣う月子と哉太。
自分は何やってるんだ。一番心配させたくない相手に一番心配させてしまっているんだ。もっと大人にならないとダメだな。
「なぁ、さっきから気になってたんだけどよ、おまえ髪はねてんぞ」
「えっ!うそ〜」
「ははっ、ほんとしょうがねぇなー。ほら、直してやったぞ」
「ありがと、哉太!」
月子のはねた髪を直してやる哉太。前まではこんなことも許せたけれど、今は無理だった。指一本、髪一本でも月子に触れさせたくない。
「……哉太」
「げっ…。お、俺、…先生に呼ばれていたの忘れてた!ちょっと行ってくるな!」
俺の空気に気付いた哉太は、逃げるように教室を飛び出して行った。月子は突然のことに驚いているみたいで、目を何度もぱちぱちと瞬かせている。
「哉太、突然どうしたんだろうね?」
うん。やっぱり気付いてないんだな。鈍感な月子には、ちゃんと言わないと気づかないからなぁ。そこが可愛いんだけど、彼氏としては心配で目が離せない。
「月子、」
「なあに?」
「月子はさ、もうちょっと警戒心を持つべきだと思うよ」
「だって哉太だよ?」
「それでも。月子は俺の彼女なんだから、他の男には触らせないで」
「…………」
月子は顔を俯かせて肩を震わせる。もしかして、自分の束縛に呆れて泣いているのだろうか。どうしようもない焦りと不安に駆られる。
「月子…?」
「………ふふっ」
「えっ…?って、何で笑ってるんだ?」
「だって、嬉しいんだもん」
「嬉しいんだもん、ってなぁ…。こっちは呆れられたかと心配してたのに…」
「あはは、ごめんごめん」
「こらっ、笑うんじゃありません」
今だクスクスと笑う月子。人の気もしらないで嬉しそう笑うもんだから、怒るに怒れない。
月子の言葉一つで、自分が喜んだり悲しんだりするんだから、ほんと敵わないなぁっていつも思う。
「これからも月子に触れていいのは俺だけなんだから。哉太でも触らせないで。わかりましたか?」
「ふふっ、気をつけます」
許容範囲を超えました
◎前サイトから。
title:HENCE