今年の地区大会も簡単に行けそうだな。周りで騒いでる奴らを見ても、こう言ったら悪いけれど、パワーリストを外すまでもないぐらいどこも弱そうだ。
コートへ向かう俺達の前から対戦校が歩いて来る。何て名前の学校だったかな。覚えてないぐらい弱い学校なのは確かだったと思う。
「今日はよろしく」
「こちらこそ。お互い、いい試合にしよう」
「ああ」
まぁ、いい試合にもならないだろうけどね。社交辞令だから。そうやって相手校の部長と軽い挨拶をしていたら、何か向こうの方が騒がしい。
女の子の声が聞こえるから、多分試合を見に来ていた子をナンパして、無理矢理連れて来たってところかな。ほんと、一体ここに何しに来てるのだろうね。
「じゃあ俺達は行くよ」
「ああ、また後で」
こういうことには、あまり関わらないことが懸命だと思う。そう思って部員に促して、この場を去ろうとしたけれど、何故か赤也が立ち止まる。
「赤也?早く行くよ」
「…やっぱり。あんだけ来んなって言ったのに…。部長、すみません!ちょっと行って来るッス!」
俺の静止も聞かず、相手のチームの中に走って行った赤也。どうしてこう、この後輩はいつも人の静止を聞かずに突っ走るんだろうね。あとで説教かな。とにかく平部員には先に行っててもらうように指示を出す。
「もしかして、赤也が一目惚れでもしたとか?」
「顔も見えてないのに、それはねぇだろ」
「確かにそうですね。としたら知り合いでしょうか?」
「まずあの女嫌いの赤也に、女の知り合いなんておるんか?」
「データでは、立海生にはいなかったはずだが」
「そんなことを言っとらんと早く行くぞ!」
本当に手のかかる後輩だよ。駆け寄ると、相手の輪の中心には原因である女の子とその子を庇う様に立つ赤也。見ると、赤也は赤目になる一歩手前だった。
「だから、ナンパするなら他をあたれって言ってんだろ!」
「何でお前に指図されなきゃなんねぇんだよ!」
これは止めに入らないと、試合前に問題を起こされたら出場停止になるかもしれない。それに赤目になってしまったら、俺達でも手のつけようがなくなる。
「赤也」
「ぶ、部長…」
「すまないね、うちの部員が迷惑を掛けて」
「いや…」
「この勝負はテニスで、ってことでいいよね?」
そう言ったら、相手の部長は首が取れるんじゃないかってぐらい激しく縦に振って、部員を促してその場を逃げるように行った。赤也に勝負はテニスでつけろって言ったら、あっさりと納得してくれたから良かった。ふふ、赤也に当たる人は可哀相だね。まぁ、自業自得だよ。
「それで、赤也。これはどういうこと説明してくれるかな?」
「その…、ナンパされてた相手が姉ちゃんで……」
「姉ちゃん?って、赤也の姉貴なんか?」
「そうッス」
「えぇっ、マジかよぃ!全然似てねぇな。髪とか真っ直ぐじゃん」
「そこッスか!?髪の色とか目の色とか似てるところありますから!」
「丸井と赤也は少し黙ろうか。それより赤也のお姉さん、怪我はなかったですか?」
「え、あっ、大丈夫です。助けて頂きありがとうございます」
赤也の後ろに隠れていた赤也のお姉さんは、確かにあまり似ていなかったけれど、笑った顔が赤也にそっくりだった。でも雰囲気とかそれ以外は、赤也と正反対って感じ。
「てか、何で姉ちゃん来たわけだよ?俺、来るなっていつも言ってんだろ」
「だって…赤也の試合見たいのに、いつも来るなって言うから。こっそり見るぐらいだったらいいかなって…」
「だから、こうなるから来るなって言ったんだよ」
「…でも赤也のテニスしてるところ見たかったんだもの」
「でも、」
「赤也、もうそれぐらいでいいじゃないか」
「……はい」
「それじゃあ、試合に行こうか。お姉さんもよかったら俺達のベンチで見て行って下さい」
「ありがとうございます。赤也、あんな人達潰しちゃってね!」
「おう、任せとけって!」
「…………」
顔とか雰囲気が似ていなくても、やっぱり姉弟なんだなって思った。
青い林檎が紅くなる
(何かが始まると思った日)
◎長い割にこのオチと、ヒロインと絡みが少な過ぎたことを反省。こういう設定で連載を書いてみたいなあなんて。
title:Aコース