目を閉じると、窓の外からはホーホーという梟みたいな鳴き声が聞こえる。あの都会の街独特の車やバイクの走る音、人が話す賑やかな声が一切聞こえない。


「…お母さん達、心配してるかな」


突然、あの世界から消えた私。どんな扱いを受けているんだろう。行方不明?それとも死んだことになってる?…考えても虚しくなるだけだから止めよう。お母さんとお父さん、どうしてるかなあ。リクは寂しがってるかな。頭の中をぐるぐると回るのは、家族のことばかり。…早く家に帰りたい。帰る方法をグリーンさんも一緒に探してくれるって言ってたし、きっと何か見つかるはず、だよね。大丈夫、そう自分に言い聞かせて寝ようとした時、突然、コンコンと窓を叩く音がした。


「誰…?」


こんな夜中に誰なんだろう。…幽霊、なんて考えたくない。少し間を空けてから、また窓を叩く音。恐る恐るカーテンを開けて窓の外を見てみれば、そこにはあの子がいた。


「セレ、ビィ…?」


幽霊じゃないことにほっとして窓を開ければ、セレビィが勢いよく私に抱き着いてきた。私の頬にスリスリしたりしてくるところを見ると、心配してくれていたみたいだ。


「大丈夫、怪我はないよ。セレビィこそ怪我はなかった?」


そう聞けば、コクコクと頷くセレビィ。良かった、怪我がなくて。頭を撫でると、また頬にスリスリと寄ってくる。


「セレビィに聞きたいことがあるんだけれど…、私を元の世界に戻すことは出来る?」


私をこの世界に連れて来たセレビィなら、元の世界に戻すことも出来るんじゃないかって思った。多分、これ以外に方法はないと思う。期待を込めてそう聞けば、セレビィは泣きそうな、困った顔で首を横に振った。


「そっ、か…」


ごめんね、とでも言うように、セレビィが私の手を握る。もう私はあの家に帰れないんだ。…もうお母さん達にも会えないんだ。今すぐ、その事実を受け入れるなんて出来なかった。


「…一人なんだ」


帰る家、家族、友達。何もかも突然失い、知らない世界で一人になってしまった。もし、あの時違う選択をしていたら何かが変わっていたかもしれない。


「…それでも、私はあの時、セレビィを助けたことに後悔はしてないの」


自分がしたことに後悔はしない。あの時違う選択をしていたら、って誰でも思うことだけれど、もし、なんてものはこの世にない。あるのは今であり、過去がああだったら、なんて考えても今が変わるわけじゃない。


「寧ろね、セレビィには感謝してるの。あの時、君がこっちに連れて来てくれていなかったら、私はあそこで死んでいたんだもの。ありがとう」


あっちの世界の私は死んだかもしれないけれど、私は今、こうして生きている。死ぬはずだった命をどんな形であれ、助けてもらったんだ。だから、セレビィには本当に感謝している。憎んだり恨むなんて、絶対出来ない。


「確かに、知らない世界で一人になったことは不安だし、怖いけれど…。生きていたら、きっといいことがあるって信じてるから。だから、私は大丈夫。心配してくれて、ありがとう」


もう一度セレビィの頭を撫でれば、私の額にちゅっ、とキスをして、どこかへと飛んで行った。


「…これからどうしよう」

「俺の家に来いよ」

「グ、リーン、さん…」


私の隣の部屋に泊まっていたグリーンさんが、扉の前に立っていた。きっと、話し声が聞こえて様子を見に来てくれたんだろう。今でも、セレビィとの会話を聞いて、自分の家に来いって言ってくれる。…本当に優しい人だ。


「それから考えたらいいんじゃねぇの?」

「…これ以上迷惑をかけるわけには、いかないです」

「でも、帰る方法がないし、帰る家もないだろ?」

「そうですけど…」

「あんまり深く考えねぇでいいんだよ」


俺に任せとけ、って言うグリーンさんの言葉に、不安で一杯だった心が少し軽くなった気がした。




ここで
生きると決めた夜


差し延べられた手は、大きくて温かかった。



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -