「やることないねー」
隣にいるブースターに言えば、首を傾げてこちらを見ている。あーもう、本当に癒される。ブースターにダイブして、ゴロゴロと一緒にソファーの上を転がる。
「…暇だ」
私がこのジムで働き出してから一週間経つけれど、特にこれと言った仕事をしていない。やったことと言えばグリーンの執務室とかを掃除したぐらいで、あとは何もすることがなかった。明らかに仕事よりゴロゴロしている時間の方が長いと思う。こんなんじゃ、ただの給料泥棒だよね。
「こんなのでいいのかなー…。ヤスタカさんとかは何してるんだろ」
ここトキワジムはカントー最後の砦と言われているだけあって、挑戦者が滅多に来ないらしい。確かにこの一週間、挑戦者が来るのを一度も見たことがない。たまに来てもほとんどの人がジムトレーナーの人達とのバトルで負けるか、それを突破出来てもグリーンには負けるんだってアキエさんとサヨさんが笑いながら教えてくれた。そういう二人は、今日はバーゲンだとか言ってタマムシまで出掛けている。ちなみにジムリーダーであるグリーンは行く場所があるとかで出掛けている。…うん、流石最後のジムだけあって余裕だよね。
「スズちゃんいる?」
「いますよー。どうかしましたか?」
部屋に入ってきたヨシノリさんに、ソファーから体を起こせば何故か頭を撫でられる。最近気づいたけれど、ここの世界の人って頭を撫でるのが好きなのかな?グリーンとナナミさんは知っていたけれど、ヨシノリさんや他のジムトレーナーさんからもよく撫でられる。やっぱりポケモンが身近にいるからなのかな。うん、きっとそうに違いない。でも、それだと私の扱いってポケモンレベルってことだよね。…まあいいや。可愛がってもらえてるってことだし、頭撫でられるのも嫌いじゃないしね。
「スズちゃん、俺と暇潰しにバトルしない?」
「ポケモンバトル、ですか?」
「うん。やったことある?」
「人のポケモンとはないです。…あの、バトルお願いしてもいいですか?」
「勿論だよ。と言うか、俺から誘ったんだから。こちらこそお願いします」
じゃあ行こうか、とヨシノリさんに促されてバトルフィールドへと行く。人のポケモンとバトルしたことがない上に、その初めてのバトルがカントー最後の砦のジムトレーナーと来たから、この前のバトルの時の緊張どころじゃない。心臓の音が聞こえるぐらいだ。
「…頑張ろうね、ブースター」
隣を歩くブースターに声をかけるけれど、いつもの元気な返事がない。調子悪いのかな。でも、さっきまで元気だったからそんなことないと思うんだけれど…。結局原因が分からないまま、バトルフィールドに立つ。審判のヤスタカさんの合図で、ヨシノリさんはボールからポケモンを出す。
「パッチール、頼んだぞ!」
「ブースター…?」
パッチールが出た瞬間、ブースターが怯えたように耳をたたんで私の後ろに隠れる。前にバトルした時はこんなことなかったのに…あっ、そうか。
「ねえ、ブースター。私はどんなに強くても弱くても、私のパートナーはブースターだけだよ」
ここでバトルをして、負けて…そしてトレーナーに捨てられた。野生のポケモンを相手にしていた時は自信溢れていたのに、このジムでバトルすることになると怯えるのはそれでなんだろう。
「約束する。私はこれから先も絶対にあなたのことを捨てたりなんかしない」
手を広げて、
どんなあなただって受けとめるよ
◎グリーンを出すタイミング…。
title:HENCE