私は今日、五歳になった。相変わらず、じい様の修業をさせられている。そのおかげで多分その辺の男の人一人は軽々と倒せるぐらいにまで強くなった。クナイも手裏剣も今じゃ百発百中だ。けれど、これっていつ使うのかな?まあ、祭とかに行った時に役に立つよね。きっと一等賞も夢じゃない。
「今日はここまでじゃ。しかし、この歳でここまで出来るとはの。流石ワシの孫じゃな」
「ありがとう、じい様。じゃあ、私は遊びに行って来るね」
「ああ、行って来なさい。じゃが、今日は早めに帰るんじゃぞ。今日はユキの五つのお祝いじゃからな」
「うん!行って来ます。セツ、行こう」
前よりだいぶ体力もついたし、今日は近くの森に行ってみようかな。家の門をくぐり、町を歩く。私が住んでいる所は、町と言うよりは小さな村みたいな所で、結構田舎だ。前世は都会っ子だった私にとっては色々珍しかった。あっ、今度じい様にここは何県になるのか聞いてみなきゃ。
「あら、ユキちゃん!今日は何処までお散歩かしら?」
「こんにちは。今日は森まで散歩に行こうと思っているんです」
「そうなの。気をつけて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
町を歩くと声をかけられるのは、よくあること。私の家は大きさからもわかるけれど、この村の村長みたいな家らしい。それで、その家の子だからなのか、よく声をかけられる。それと、私はどうやら出来た子で有名らしい。そりゃあそうだよね。精神年齢二十歳なんだから、色々出来て当たり前だよ。それもあってか、知らない人からも褒められたりする。悪い気はしないからいいけれど、子供には何故か敬遠されがち。だから五歳になっても友達はゼロだ。もう諦めたけれどね。
「セツ、もうちょっと中まで行ってみよ」
「今日は、書庫の方はいいのか?」
「うん。だって、秘伝の書も他の書も覚えるぐらい何度も読んだし」
「そうか。だが、あまり奥までは行くなよ」
「わかってるよー」
森の中を散歩するのは気持ちがいい。森林浴ってこういうことだったんだなあ。都会じゃ絶対に味わえないよね。しばらくぶらぶらと歩いていると、日が暮れ出した。そろそろ帰らないと、今日は久しぶりにお母さんもお父さんも早く帰ってくるからね。仕事が忙しくて、あまり家にいる時間は少ないけれど、私は二人のことが大好きだ。今日は帰ったら二人と色々話したいなあ。
「セツ、そろそろ帰ろ。多分今から帰っても、ちょっと遅くなっちゃうよね」
「ああ、そうだな。……!」
「どうしたの?」
「……家の方角から血の匂いがする」
「えっ、血…?」
血の匂いって、このご時世にそんな物騒な!冗談、なんて思っていたら、セツが突然大人二人は乗れるだろうっていうぐらいの大きな狼になった。セツってもしかして妖怪の類いだったの?!私がびっくりして固まっていると、セツがしゃがみ、背中に乗るよう急かす。
「…セツって何者なの?」
「それは後で話す。先ずは急ぐぞ」
「う、うん」
風を切るような速さで走るセツ。多分ジェットコースターより速いんじゃないかな。回りの景色が見えないし、耳は風の音で何も聞こえない。目を閉じてセツの首を必死に掴んでいたら家に着いたのか、セツが止まった。目を開けると、目の前にあったのは私の大嫌いな真っ赤な色に染まった家と人達だった。