火影邸の屋上は私のお気に入りの場所。ここから見渡せる里の景色が好きなんだ。


「ここにいた」

「あれ?こんにちは、カカシさん。どうしたんですか?」

「デートのお誘い」

「任務は大丈夫なんですか?」

「終わらして来たから大丈夫だよ」

「ふふっ、じゃあよろしくお願いします」

「了解」


カカシさんは、よく私にデートのお誘いと称した散歩に誘ってくれる。場所はいつも決まっていない。特に何かするわけでもなく、ただぶらぶらと歩きながら他愛のない話をするだけ。前世では男の人と歩くなんてこと一度もなかった私だけれど、不思議とカカシさんの隣はおじいちゃんの隣とはまた違った心地好さがあって落ち着くんだよね。


「今日、アカデミー卒業したんでしょ?おめでとう」

「ありがとうございます」

「ついにユキも下忍かァ…。なんか心配だな」

「むっ、何でですか」

「だって、ユキはすぐ無理するでしょ。あと、ドジだから怪我しないか心配だよ」


確かにカカシさんの言う通りかもしれないけれど、私は天才でもないから。強くなるために多少の無理が必要なんだよ。それと、ドジなのは認める。カカシさんと初めて会った時もそうだったけれど、私は何かしらドジすることが多い。…自分で言ってて悲しくなってきた。


「どうせ私はドジで間抜けなんです」

「あれ、拗ねちゃった?」

「拗ねてないですよーだ」

「ごめんって。でも、心配なのは本当だから。あまり無理はしないでよ?」

「…努力はします」


そんな会話をしながら街中に入る。ここはいつ来ても道は人でいっぱいで賑やかだ。人に揉まれながら歩いていると、私の隣を歩いていたセツが踏まれそうになり、慌てて抱き上げて肩に乗せる。人で前が見えないぐらい、本当に人が多い。


「わっ、」


ボーッと歩いていたからか、前から来た人にぶつかる。慌てて体勢を立て直そうとしたけれど、その後ろからも人が来たせいで私は背中から地面に倒れた。


「うう、痛い…」

「ユキ、早く起き上がれ!踏まれるぞ」

「う、うん!」


セツの声に起き上がろうとしたら、人の波が押し寄せて来る。踏まれるって目を閉じた時、ふわっと抱き上げられる感覚がした。あれ、何かデジャブ。


「ユキ、大丈夫…?!」

「あ、」


目を開けると、カカシさんの慌てた顔が目の前にあった。こんな慌てた顔をしたカカシさんって珍しい。


「怪我はない?」

「カカシさんのお陰で大丈夫です。ありがとうございます」

「良かった…。心臓止まるかと思ったよ」

「…ごめんなさい」

「いや、オレも早く気づいてやれなくてごめんね」


少し人通りが少ない道になるまで、カカシさんに抱っこされたまま進む。さっきは焦っていたけれど、抱っこされるのって何年ぶりだろ。って、それよりこの歳で抱っこされて歩くってどうなんだ。


「カ、カカシさん、その…降ろして下さい。もう大丈夫ですから」

「ヤダ」

「ヤダって言われても、私は恥ずかしいんです!」

「気にしない、気にしない」

「気にします!」

「ほら、もうちょっとで着くんだから大人しくしててね」


結局抵抗も空しくカカシさんに抱っこされたまま。今、絶対顔が真っ赤だよ。ああもう本当に恥ずかしい。


「はい、着いたよ」


そう言ってやっと地面に降ろしてくれたと思ったら、手を引かれてお店の中に入って行く。店の中に入れば、沢山の服がずらりと並んでいた。えっ、服屋?カカシさんの顔を見ると、いつものように目を弓形にして笑っているだけ。相変わらず考えが読めない。


「あの…、カカシさん。何で服屋なんですか?」

「ん?ユキ、まだ忍服買ってないでしょ?」

「そうですけれど…」

「だから、今から買うの」


…また突然なことを言いますね。でも、忍服ってどういうものがいいのか、さっぱり分からないよ。しかも、こんなたくさんある中でどう選べばいいんだ。


「じゃあ、選ぼうか」

「…もう動きやすいなら何でもいいです」

「選ぶの諦めないの」

「………」

「しょうがないねー。じゃあ、オレが選んであげるから待っててよ」

「……はい」


カカシさんにお任せして、私とセツは店内をぶらぶらする。ほんと、色々な種類の服があるなあ。和服もあれば、洋服やチャイナ服もあってジャンルが豊富だ。しばらくすると、カカシさんが服を手に帰ってきた。


「はい、こんなのはどう?」


カカシさんが持って来たのは、和服をベースにしたシンプルな忍服。色も私の青みがかった黒い髪に合うように選んでくれている。とにかく凄く動きやすそうで私の好みの服。流石カカシさん。センスがいい。


「どうかな?」

「私、これにします」

「え、そんな即決でいいの?本当にこれでいいの?」

「私はこれがいいんです。それに、カカシさんが私に選んでくれたものですから」

「そっか。それは嬉しいな」


シンプルで気に入ったのもあるけれど、何よりカカシさんが選んでくれたものだったからこの服に決めた。あっ、そういえば財布を家に置いて来てしまった。取りに帰って、また来るかな。


「じゃあ、私、お金取りに帰ってからまた来ます」

「オレが払うからいいよ。そのために連れて来たんだから」

「でも…」

「遠慮しないの。ほら、お金払いに行くよ」

「えっ、」


持っていた服を取られ、そのままレジに直行するカカシさん。あとで払うって言っても、卒業お祝いだと言いくるめられ、結局買ってもらうことになった。


「…なんか、カカシさんにもらってばかりな気がします」

「オレがしたいからいいの」

「納得出来ませんよ」

「んー、じゃあさ、今度ご飯作ってよ」

「そんなものでいいんですか…?」

「うん。あっ、オレの好きなものは茄子の味噌汁に秋刀魚の塩焼きね」

「分かりました。カカシさんの都合がいい時に作りに行きますね」

「楽しみにしてるよ」


茄子のお味噌汁に秋刀魚の塩焼きに、あと何を作ろうかな。頑張って美味しいものを作ろう。



◎無駄に長い。ただカカシと絡ませたかっただけの話。




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