アカデミーの帰り、久しぶりに来た慰霊碑の前にはよく見知った人がいた。


「こんにちは、カカシさん」

「あれ?ユキがここに来るなんて珍しいね。今日は、セツは一緒じゃないの?」

「今日は何となく一人で来たくなったんです」

「そう」


カカシさんの隣に立って、手を合わせる。木ノ葉の上忍だった私のお母さんとお父さんの名前は、死んだ後すぐに慰霊碑に刻まれた。でも私がここに来るのは命日である私の誕生日ぐらいで、今日は本当に何となく来てみたくなっただけだった。


「カカシさんは誰かのお参りですか?」

「うん。親友の、ね」

「そうですか…」


多分、親友ってカカシさんに写輪眼をあげた人のことだよね。確かカカシさんを庇って死んだんだっけ…。きっと、これ以上は踏み込まない方がいいよね。誰だって聞かれたくない過去はある。それに、カカシさんにとって辛い過去だろうし。


「…前から思っていたけれど、ユキって子供らしくないね」

「へ?突然、何ですか?」

「いや、普通の子供はもっと聞きたがるもんでしょ。それなのに、ユキは何も聞いてこないからさ」

「そうですか?確かに少し気になりますけれど、カカシさんが親友って言った時の顔が辛そうに見えたので…」

「やっぱりユキは子供らしくないねー。…うん、そうだな。ユキには話そうかな」


そう言って慰霊碑を見つめたまま、ポツポツと話し出すカカシさん。時々、話す表情がすごく辛そうで、きっと今でもその時のことをずっと後悔して苦しんでいるんだって思った。


「…カカシさん。私、上手く言えませんが…、オビトさんはカカシさんだったから全てを託したんだと思います」

「オレだったから…?でも、オレは仲間を見捨てた最低な奴なんだよ?」

「カカシさんは最低な人なんかじゃないです。そうじゃなきゃ、オビトさんはその目を渡してないです」


信頼していなかったら、自分の目をあげるなんてことは出来ない。カカシさんだったからこそ、自分の目と共に未来を託したんだと思う。


「オビトさんは、今でもカカシさんの左目を通して、カカシさんと一緒に生きていると思うんです。これからもずっと。…だから、あまり自分を責めないで下さい。オビトさんが悲しみます。…って、子供が偉そうに言ってごめんなさい」

「…ううん。ありがとう、ユキ」

「えっ、」

「ユキの言う通り、オレの左目にはオビトが生きてるみたい。ほら、こっちだけ泣いてるでしょ?」


そう言って振り向いたカカシさんの赤い左目からは涙が流れていた。他の人の目が入っているって怖いとか思うかもしれないけれど、そんなことを全然感じないぐらいその赤い目は綺麗だった。


「…綺麗」

「ありがと。そんなの初めて言われたよ。…って、また出て来た」


止まったって思っていた涙が、またポロポロと出て来る。オビトは泣き虫だったからなー、って言うカカシさんの表情は晴れ晴れとしていた。


「ふふっ、ハンカチをどうぞ、オビトさん。そろそろ泣き止まないと、カカシさんが困っちゃいますよ」

「確かに困るねー。オビト、早く泣き止んでよ」


きっとオビトさんは、泣けないカカシさんの分まで泣いているんだと思う。忍は泣いてはいけないって、いつか見た忍の心得に書いていたけれど…、泣けないって悲しいことだよね。私には無理だ。


「本当にありがとね。ユキに話して良かったよ」

「それは良かったです」

「じゃ、帰ろうか。火影邸まで送るよ」

「ありがとうございます」


少し前を行くカカシさんの背を追いかける時、慰霊碑をもう一度見れば、「ありがとな」って声が聞こえた気がした。



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