水面歩行の練習二日目。やっと昨日掴めそうになっていたコツを掴むことが出来て、水面の上を普通に歩けるようになった。チャクラコントロールって本当に難しい。医療忍術も勉強したいし、もっとコントロール出来るようにならなきゃ。
「…よし!水の上は歩けるようになったし、ちょっと木に登ってみようかな」
「今日はもう終わった方がいいんじゃないか?チャクラも少ないだろ」
「一回だけだよ」
「落ちても知らないからな」
「大丈夫」
池のすぐそばにあった一本の木の前に立って、チャクラを足元に集中させる。薄すぎず、厚すぎずにチャクラを足に集めて少し助走をつけてから木を駆け登る。トントン、と木の上を走る音が鳴る。
「わっ…、出来た!」
「出来たなら早く降りて来い。落ちるぞ」
「うん、分かっ……え?」
降りようと下を向いた瞬間、思ったよりも自分が上まで登っていたことに驚く。その一瞬の集中の途切れで、木から足が離れる感覚がした。気づいた時には既に遅くて、私は下へと落ちていく。途中、もう一度足にチャクラを溜めて木に足をつけたけれど、チャクラ量が少なくてすぐに木から足が離れる。こんなことになるなら、セツの言う通りに止めれば良かった。来る痛みに目を閉じた時、ふわっと誰かに抱き留められた。
「あ、れ…?」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫、です。ありがとうございま、す…」
誰だろうと見上げれば、抱き留めてくれた相手はあのカカシ先生だった。ど、どどどうしよう、なんて一人でパニックになっている私を地面に下ろすと、何故かカカシ先生はニッコリと笑う。
「君、ユキでしょ?」
「えっ…、私を知っているんですか?」
「有名だよ。火影様がいつも自慢しているからね」
「えぇっ?!」
おじいちゃん。何、人のことを言い触らしているんだ。嬉しいけれど恥ずかしいよ。でも、何を自慢することがあるんだろ?私、特に何もしていない気がするんだけれど。
「火影様の話しの通りだね」
「そ、うですか…」
間抜けってことかな…。どう考えても、それしか思い浮かばないんだけれど。目を弓形にして笑っているカカシ先生は、何を考えているのかさっぱりわからなかった。
「あっ、自己紹介がまだだったね。オレは、はたけカカシ」
「氷野ユキです。こっちはセツです。あの…、カカシさん。おじいちゃんは私のことを何と話しているんですか?」
「ん?美人で可愛い子で賢い子だ、とか。あと、礼儀正しい子とか。ここ二日は、ワシに黙って修業していて寂しい、って言ってたなー」
「えっ、」
おじいちゃん、それは贔屓目じゃないかな。私は至って平凡な子であって、特別美人でも可愛い子でもないよ。賢いって思うのはズルしているからで、大人になったらきっと普通だと思うんだ。礼儀正しいのは認める。前世でバイトしていたからね。自分でもそれだけは自信がある。でも、おじいちゃん。私にそのハードルは高すぎると思うんだ。
「ねェ、ユキに聞きたいことがあるんだけれど」
「何ですか?」
「ユキは何で修業しているの?」
「強くなるためです」
「それは復讐するため?」
「いいえ…」
「じゃあ何で?」
「私は、もう二度とあの時みたいな思いをしたくないから…。だから、次は自分の手で大切な人を守りたいんです。それに、復讐しても何も残らないですから…」
大蛇丸は憎いけれど、私は絶対に復讐者にはなりたくない。お母さん達は私に復讐してほしくて私を守って死んだわけじゃないから。それに、もし私が仮に復讐者になって相手を殺したとしても、その後には空虚さがあるだけだと思う。復讐は負の連鎖を生むだけ。それは、漫画でのサスケを見ていて思った。あんなの悲しくて虚しいだけだ。だから私は守ることを決めた。大切な人達と、おじいちゃんが守っているこの里を守りたい、って。そのためには、強くならないといけないと思った。
「そっか…。ユキは優しいね。火影様が自慢するのもわかる気がするよ」
「そう、ですか?」
「うん。…じゃあオレは行くけれど、無理だけはしないように!修業頑張ってね」
「はい。ありがとうございました」
そう言って瞬身で帰って行ったカカシさん。私もそろそろ帰らないと。まず帰ったら、おじいちゃんに口止めしなきゃ。