*微精神崩壊
*病んでる




あいつの笑った顔が好きだった。
ぎこちなく笑うあいつが好きだった。
好きだと告げれば馬鹿じゃねえのと茶化すあいつが好きだった。
顔を赤く染めながら馬鹿というあいつが好きだった。
嫌悪する顔も好きだった。
嫌がっているそぶりをしつつ、こちらに距離を縮めてきたり。
寂しくなったらそっと後ろからちょっかいをかけてきたり。
俺がなにかをするたびに、反応してくれるあいつが、花宮が好きだった。
愛していた。
初めて本気で人を好きになったんだ。
まだ生まれて17年しかたっていないのに、最初で最後の人だとすら思えた。

ずっと一緒にいたい、たったそれだけだった。
それだけを望んだ。

その結果がこれだなんて、信じたくなかったんだ。


「なあきよし、なあ、きよしはおれといっしょだよな」

笑いながら俺の腕にひっついてくる花宮。
昔では考えられない姿だ。

「いっしょなんだ、おそろいなんだ。だからいっしょにいてくれるんだよな」

頬擦りをする花宮は、笑顔だった。
昔では考えられないほど、笑っていた。

「おなじだから、おれみたいなのといっしょにいてくれるんだ」
「…違う、違うよ花宮」
「なんで。ちがわない。きよしはおれをこわしたいからいっしょにいるんだろ」

腕にだんだん力がこもってくる。
それでも花宮は笑っている。
けれど、その目は俺を映していなかった。

「…同じじゃなくても、俺は花宮を愛しているよ」


「…きよしはだれをあいしてるんだよ」
「おれのなまえは、はなみやなんてものじゃないのに」


嗚呼どうして壊れてしまったのか。
あんなにも気高い彼が、どうして。


「…そうだったな、お前は木吉真だもんな」
「そうだよきよし、わすれるなんてひどいやつだな」

「きよしはだれをあいしてるんだ?」

じっとこちらを見つめる花宮。
見つめているはずなのに、焦点はあっていなかった。
そのことに、とてつもなく悲しくなる。

「もちろんお前だよ、真」

そう言えばきれいに笑う。
嗚呼壊れた君も美しい。
けれど、それは愛した彼ではないのだ。

抱きよせてキスを落とせば、簡単に笑う彼など。

捨ててしまいたい、けれど捨てることはできない。
もしかしたら、またあの気高い花宮に会えるのではないかと。
会えるわけもないのに、戻るわけもないのに。


「お前は残酷だよ、花宮」


どうしても目を合わせられなくて、花宮から目をそむける。

「もう部屋も暗い。眠る時間だよ、真」
「きよしは」
「もう少ししたら俺もいくさ」

無理やりにでも寝室に押しこむ。
これ以上は、見ていられなかった。

「おやすみ、きよし」
「おやすみ、花宮」

大人しく寝室に向かう花宮を見送り、コーヒーを入れようとキッチンへ向かう。
花宮が発した言葉は、俺の耳が拾うことはなかった。


「…いつになったらちゃんと俺を見てくれるんだよ、木吉」
「お前が愛してるのは俺じゃない」

「お前が愛しているのは、神格化された花宮真だって気付けよ」


「ひとをあいせないかわいそうなひと」




ぼくをあいさないきみなんて、
(はやくこわれてしまえばいいのに)



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