ゆっくりと意識が浮上していく感覚。
目を開けると部屋の中は真っ暗で。
いつもと変わらない部屋に、いつもと変わらないように眠っていた筈なのに、なぜか暗い、というだけで恐怖を覚えた。
暗闇の中に、自分だけ取り残された気がして。

息が苦しくなり、胸のあたりがざわつく。
身体を起こしてみたものの、その感覚が消えることはなくて。
ぎゅう、と布団を握りしめ、胸に手を当てる。

「…は、あ」

ゆっくりと息を吐き出してみても、何も変わらなかった。
身体は冷え切っていて寒いのに、それ以上動くことができなくて。

何かを考えて意識を逸らそうとしても、頭はまったく動いてくれない。
何か得体のしれないものが、身体の中にはいったようだった。
寝ころぶ気にもなれず、無理やり身体を動かす。
ぺたり、と足をつけた床は、とても冷え切っていた。

(…さみいな)

しばらく座ったまま、意識を飛ばす。
何かをしたいわけでも、するわけでもなく。
足からまた身体が冷えていく感覚がするが、それ以上動く気になれなくて。

ふと顔をあげてみると、月明かりが部屋に差し込んでいた。
いつもなら寝る前にカーテンは閉めるのだが、どうやら閉め忘れていたようで。
青白く部屋の中を照らす光が、今はとても恋しくて。
ゆっくりとした動作で立ち上がり、窓へ近づく。
窓からは冷気が漂っていた。
手を触れると床に触れたときよりも冷たくて、思わず眉をしかめる。
月を見ようと窓を全て開けて、見上げようとしたときだった。

こつん

壁に何かがぶつかった音。
それにつられて、下を見ると。

「おはよう。今日は寒いな!」

笑いながらこちらを見上げる木吉がいて。

「…何時だとおもってんだ、おまえ」
「ん?…おお!4時だな!」
「…ばっかじゃねーの。かえれよ」

頬杖をついて見下ろす。
外は部屋よりも寒く、まるで冬のようだった。

「…帰らない。花宮のそんな顔を見てしまったら、尚更」

木吉はじっとこちらを見つめてくる。
なぜか見透かされているようで、心の中を見られているようで。
とても居心地が悪かった。

「…なんだよ、そんな顔って」
「泣きそうな、寂しそうな顔をしている。そんな顔してる花宮を置いて帰るなんてできないさ」
「…ずっと、そこにいる気かよ」
「んー?まあ、そうなるなあ」

「…ばっかじゃねえの」

そう吐き捨てて、窓を閉める。
窓を閉めて、カーテンを閉めた後の部屋はとてもしんとしていて。
不意に、寂しいと思ってしまった。

冷え切った身体を、ベッドにうずめる気にはなれず。
ゆっくりと、足を扉のほうへ動かす。
扉に手を触れると、とても冷え切っていて。
ゆっくりとドアノブを開けると、ぎい、と錆びたような音をたてて扉が開いていく。
開いた先には、闇が広がっていた。

その闇が、とても怖く感じて。

物音が立つのも構わず、ひたすら玄関へと足を運ぶ。
しんとした空間も、そこに鳴る物音も、何もかも怖かった。
玄関のカギを開けて、外へ出ようとすると、何かにぶつかって。

「…っと、大丈夫か?花宮」

ゆっくりと顔をあげると、そこには木吉が立っていて。

「…なんでまだいんだよ」
「インターホンを鳴らそうと思って」
「近所迷惑、だろ」
「はは、そうだな」
「そうだな、じゃねーよバァカ」
「でも逢いたくなったんだ。仕方ないだろ?」

屈託なく笑って、頭をなでる木吉に、安心している自分がいて。
無意識に、木吉の服を握っていた。

「…さみい。ねみい。ねるぞ、木吉」

木吉から身体を離し、腕をひっぱる。
木吉は少し驚いていたが、すぐ笑顔になって家の中へ入ってきた。

「随分と素直だな」

後ろから笑いながら木吉がそうこぼしたが、無視することにした。
夜が、暗闇が悪い。そう言い訳して、部屋に足を運ぶ。
ゆっくりとまた扉を開く。ぎい、と錆びついた音がする。
それでも、もう寂しく感じることはなかった。

「おいで、花宮」

ベッドにもぐりこんだ瞬間、木吉に腕を伸ばされて。
ゆっくりと近づくと、そのまま抱きしめられて。

「おやすみ」

額にキスをされる。
隣にある暖かい感触、抱きしめられている感覚を、普段は煩わしいと思うのに、なぜか拒めなくて。むしろ、求めていて。
ばれないように、木吉の心臓部分を服の上からキスをして。

「…おやすみ」

そのまま、ずるずると眠りに落ちていく。

しんとした空間も、物音も、闇も。もう怖くなくなっていた。




夜に解けて消えていく
(ぼんやりと、ゆっくりと解けていくのです)


すうすうと寝息を立てる花宮を見て、思わず笑みがこぼれた。
寂しそうにしていた表情も、今は和らいでいて。
頬をつついてみても、起きる様子はなくて。

「…頼ってもいいんだよ、花宮」

もう一度額にキスを落とし、ゆっくりと目を閉じた。


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