目の前に落ちていたそれは、かつて自分が身につけていたもので。
これをつけていたときの自分は、今見てみるととても滑稽で。
荊で自分をとり囲めば、触れてくる人間も、近寄る人間もいないと信じ込んで。
自分で築き上げた荊の城の居心地の良さに酔いしれた。
ひとりなんだと思いこむことで自分を守っていた。

けれど、いつのまにか。
その荊の城も、目の前に落ちていたそれも壊れ、朽ち果てていた。
ぼろぼろになったそれは、誰の目にもふれることなく佇んでいた。
それを手に取ろうとしたけれど、その手は荊に触れることはなかった。

そこに佇む荊も、王冠も。
もう必要ないよ、といいたげであった。


「…人生何が起こるかわかんねえもんだな」

もそもそと動きながら、ぽつりと花宮は呟いた。

「なにがだ?」
「お前とこんな関係になるなんて思ってもなかった」

動きながら毛布を探す花宮をみて笑いながら、木吉は毛布をかけてやった。
毛布にくるまりつつ木吉を見る花宮の目は、いつもと違っていた。

「俺は花宮とこうなれて、嬉しいと思ってるぞ」
「…嘘くせえな。俺のこと嫌いだったくせに」
「俺は嫌いな奴とこうやって一緒に居たりしないぞ」

木吉は花宮が寝ころんでいるベッドの縁に座り、花宮の頭をなでる。
花宮はその手を難なく受け入れ、目を細めた。
まるで猫のようだ、そう思いつつも木吉は撫でる手を休めることはなかった。

「かわいいなあ」

そう呟けば、花宮は少し怪訝そうな顔をした。

「…なにが」
「お前が」
「なんで」
「なんでって…かわいいものはかわいいぞ」
「…俺にかわいいなんていうの、お前ぐらいだよ」
「できたらそうであってほしいな」
「は?」

「花宮の魅力を知っているのは俺だけでいい、ってことだ」

花宮の額にキスを落とし、そのまま上へ倒れこむ。
花宮は木吉の頭に手をやり、そのまま頭をなでてやる。

「随分と独占欲が強いこった」
「花宮をとられたくないからな」
「俺のことを好きになるような物好きはお前くらいだ」
「…そんなの、わからないだろ」
「あーはいはい、そうですねー」

くすくすと笑いながら、花宮は木吉の頭を、まるで犬を撫でるかのように撫でてやる。

「つか重い、寝るならベッド入れ」
「なんだ、入れてくれるのか?」

木吉は顔をあげて、もう一度、今度は花宮の頬にキスを落とす。
花宮は屈託のない顔で笑い、木吉の額にでこぴんをお見舞いする。

「痛いじゃないか」
「調子のんな。…まあ、湯たんぽ代わりにならしてやらんこともねえぞ」
「素直じゃないなあ」
「素直な俺なんて俺じゃねえだろ」
「そんなことはないさ」

花宮は少し壁側に寄り、木吉の寝ころぶスペースをつくってやる。
木吉がそこに寝ころぶと、花宮は毛布を少しずらし、木吉に抱きつく。
木吉は花宮を抱きしめつつ、布団を被る。

「はー、あったけえ」
「湯たんぽ代わりにはなりそうか?」
「…湯たんぽ以上、だな」
「はは。おやすみ」

ほぼ寝ている状態の花宮に毛布をかけ直し、木吉も目を閉じた。





目の前に佇んでいたはずの荊の城と王冠は、ゆっくりと光に飲まれていった。
光の先をみるとそこには、初めて愛しいと思ったものが居て。
笑いかけると、手を伸ばされた。
迷わずその手をとり、ゆっくりと歩いていく。

自分を守るための荊の城も、王冠も、もう必要なかった。




メルヘンクイーンの冠
(砕けた冠、砕いたのは君)


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アンケートで1位だった「木花のあまあま」です
あまあまって…なんだっけ…
10000hitありがとうございました!


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