ガタン、ゴトン。
電車は一定のリズムを刻みながら運行している。
電車の中には、帰宅中とみられるサラリーマンと学生がちらほらいるだけで。
皆ケータイをいじったり、目を閉じたりしていた。

俺の横にいる人も、そんなうちのひとりで。
さっきまでは起きていたのに、いつの間にか目を閉じていた。

(やっぱ、疲れてるっスよね)

自分も彼も運動部員だし、部活に力を入れているため休日はほぼない状態。
自分に至ってはモデル活動もあり、貴重な部活休みでも仕事が入ったりするくらいだ。
今日だって仕事が入っていたし、部活もあった。
明日も部活はあるのだろう。
しかし、なぜか行きたくなかった。
何もかも投げ捨てて、ひとりで何処かに行ってしまいたかった。
けれど、そうすることはできなかった。

手に握っていた切符を見る。
駅で一番高い一番端の切符を購入し、何も思わずに電車に乗った。
幸いその電車は終点まで行くらしく、終電間際の為人も少なかった。

本当は、隣で眠る彼を誘うつもりなんてなかった。
何もかも投げ捨てて何処かに行くのなら、尚更。
自分が知らない場所にひとりで行くのなら、誘う意味なんてなかったのに。

ガタン、ゴトン。
電車が停車して、駅に着く。
乗っていた人は皆此処の駅で降りてしまい、車内には自分と彼以外いなくなってしまった。
ひやりとした空気がはいってきて身震いをする。

ドアが閉まり、電車は次の駅へと走り出す。
他の車両を少し覗いてみたが、誰も乗っていなかった。

「…寒い」

窓の外には暗闇と、知らない街。
都会から少し外れたところのようで、田園風景が広がっていた。
まったく知らない場所で、終電間際で、泊るところなんてなくて。
どうしようかな、なんて暢気に考えているとケータイが震えた。
煩わしく思いつつみてみると、発信源は先輩で。
電車内だけれど人がいないからと、通話ボタンを押した。

『黄瀬おっま今日部活だっつっただろ!!』

耳にキーンとくる先輩の声に苦笑する。
どうやらスタメンで集まっているらしく、森山先輩の声も聞こえてきた。

『お前今何処にいるんだよ』
「…さあ、わかんねえっス。すまっせん、今電車なんで」

おい黄瀬、という声が聞こえたが、無視して通話を切る。
電源を落とし、機能しなくなったケータイをポケットにしまいこんだ。
心配してくれているのだろうけれど、今はその心配すら煩わしかった。
何もいわずに電車に乗った自分も悪いが、一応部活には顔を出した。

居心地が悪いわけではない。
昔の帝光に比べたら先輩方は優しいし、バスケも充実している。
自分でもわからない。

目を閉じて、電車の振動する音を聴く。
そうしていると、どうやら終点に着いたようで。

「…青峰っち起きて。着いた」

隣にいる彼をゆすり起こす。
一度揺らした程度では起きないぐらい疲れているのだろう。

(…この電車って、終電じゃないからまた戻るよな)

疲れている時に無理やり呼び出して、無理やり付き合わせて。
いくら恋人とはいえ、怒って当然だろう。
幸いにも回送ではなく、元の場所に戻るようで。

「…おやすみ」

肩に触れていた手を外し、マフラーに顔をうずめる。
扉が閉まる前に出なければと思い、少し早足で足を進めた。

駅のホームは人ひとりおらず、がらんとしていた。
駅員も帰ってしまったようで、シャッターが閉まっていた。
持っていた切符を通し、改札から抜ける。

(そういえばなんで切符を買ったんだろ)

財布の中にsuicaが入っていたことを思い出して、ひとりで笑った。

電車の発車する音がして、それが過ぎるとシーンと静まり返ってしまった。
世界中にひとりだけみたいだ、という表現ができそうなくらい、静かで。
駅から一歩出ればそこには家屋と田んぼが広がっていて。
上を見れば、此処は本当に同じ県かと言いたくなるようなほど、透き通った星空が。

「…世界中にひとりだけみたいだ」

ぽつりとこぼして、マフラーを巻き直す。

「残念ながらひとりじゃねえよ」

寒いな、なんて言いながら、さっきの電車で帰った筈の彼がいて。

「…青峰っち」
「お前さあ呼び出しといて放置はねえだろ」
「起きなかったから、つい」
「ついじゃねーよつか起きてたよ」
「返事なかったから寝てると思ったんスよ」

いつの間にか彼は俺の隣に来ていて。
俺の手を握りしめて、顔をしかめながら「…冷てえ」とぼやいた。

「で、どうすんだよ。もう終電ねえぞ」
「そうっスね…どうしようか」

あてもなくただぶらぶらと肩を並べて歩く。
車も人もまったく通っておらず、進んでいくうちに家屋も減っていった。

寒い、とぽつりとこぼしながら、手を近付ける。
そうしたらゆっくりと繋がれて。
そのぬくもりに思わず頬が緩んだ。

ゆっくりと手を繋いだ状態で足を進める。
行先なんてなくて、たどり着く宛てもなくて。

そうしているうちに、帰りたくなって。

「青峰っち。こっから歩いて帰ろ」
「はあ?何時間かかると思ってんだよ。つかお前神奈川だろ」
「でもここ東京だし」
「いや関係ないだろ」
「いいじゃないっスかたまには。青峰っち泊めてよ」
「…いいけどよ。今から帰ったらどんぐらいかかるだろうな」
「1日もかからないから大丈夫っスよ」
「……はあ。おら、帰るぞ」

繋がれた手はそのままに、来た道を引き返して。
駅はもうしまっていたから、きっともう終電を過ぎてしまったのだろう。

「歩いて帰るのめんどくせえ。とりあえず歩くけど始発始まったら乗って帰るぞ」
「…それまで待つんスか?」
「待たねえよ」

手をひっぱられて、二人で線路に沿って歩き出す。
繋がれた手はそのままだった。

「じゃあどうするんスか」
「とりあえず歩く。んで駅までいくぞ」
「もう駅っスよ」
「馬鹿だろお前。始発の時間まで歩いて別の駅行くんだよ」
「それで?」
「それで、始発の時間についた駅で電車に乗ればいい」

男二人が深夜に手を繋いで、線路沿いを歩くだなんて中々おかしな話だな。
ひとりで笑っていると、何笑ってんだよ、と少し拗ねたような声が聞こえてきて。


「…ひとりでこなくてよかった」


ぽつりとこぼしたら、握られている手に力が込められた。
それがなんだか幸せで、また笑みがこぼれた。

この人となら、何処までもいけるとこの時初めて確信した。



ぼくだけのちっぽけなせかいに
(一緒にいてくれる人がいたのです)




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氷霊様リクエストの甘い青黄でした。
甘く…ないね…
2回ほどデータがふっとんで泣きかけました。
勝手にログアウトはほんと…もう…
リクエストありがとうございました!


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