※微グロ
※人外
※パロディ




君と過ごせた日々は、宝石のように輝いていて。
大切な宝物になりました。





木吉と付き合って1カ月くらいしたときのこと。
どうしても大事な話があるからと部屋に案内されて。
何があるのかと思ったら、そこには。
木吉とは思えないような、形容しがたいようなものがいて。

「おれな、ばけものなんだ。にんげんじゃないんだ」

泣きそうな声で、木吉の声で、はっきりとそう言った。
それで、嗚呼これは木吉なんだ、木吉鉄平なんだ、そう理解できた。

「やっぱり、こんなおれは、だめか?」

落ち込んだようになっている木吉をみて、思わず笑ってしまって。
駄目じゃねえよ、仕方ねえから付き合ってやるよなんて、可愛げのないことを言って。
木吉が嬉しそうに、じゃれつくように抱きついてきたことを憶えている。

それから日は流れ、高校を卒業し、同棲し始めて、大学を卒業して。
木吉は就職して、俺は在宅の仕事をして。
疲れて帰ってくる木吉のために、なんとかして慣れない家事をして。
木吉が笑ってただいま、って言うから、つられて笑って、おかえりって返して。
慣れない家事ばかりさせて悪いな、なんて言うから。
そっちこそ、仕事がんばれよな、って悪態をつくみたいに言って。

木吉の仕事が休みの日は、外に出かけたりして。
ホームセンターで家具を見たり、服を買ったり。
たまにおそろいのものを買って、恥ずかしがってみたり。
あの時に買ったマグカップは、今でも愛用してあって。

とても、幸せで。

けれど、時間というのは残酷なもので。


木吉はだんだんと人間と同じような姿になれなくなっていった。
一時的になるときもあれば、一日中元の姿のままのときもあって。
流石に外に出れないからと、仕方なく会社を辞めてしまって。

「はなみや、ごめん。ばけもので、ごめん」

ぼろぼろと涙を流して俺に謝る木吉を見るのは、とても心が痛んだ。
悪童と呼ばれた俺でも、痛むような心があったのかと驚いた。


そして、だんだんと自我すら失っていった。
木吉は「木吉鉄平」ですらなくなっていった。

化け物?
違う。
これは木吉だ。

そう自分に思い込ませて、ずっと木吉の傍にいた。

木吉が自分を殺しにかかってきたって、全部受け入れた。
抱きしめて、大丈夫だって言って。
本当は大丈夫じゃないのに。
身体はもうぼろぼろなのに。
それでも、木吉が目覚めたときに安心できるように、目覚められるように。
目覚めた木吉はいつも俺を抱きしめて泣く。

「ごめん、ごめんな、花宮。このままだと花宮が死んでしまう」
「だから、離れよう。俺は花宮に生きていてほしいから」

ぼろぼろ、ぼろぼろ。
木吉の涙はとてもきれいで。
嗚呼、こんなにも木吉は綺麗なんだと再確認して。

大丈夫だから
木吉、俺は離れていかないから
だから泣くなよ
男のくせにだっせえな

悪態をついて、木吉を安心させようとして。
動かない身体をなんとか引きずって、家事をして。
木吉が寂しそうな眼をしていることに気づいていたけれど、それも無視して。

きっと俺は木吉に依存していて、木吉も俺に依存していたのだろう。
だから、離れられなかった。
離れたほうがいいと何人もの人に言われても、それだけはできなかった。

けれど、やはり。
離れたほうがよかったのかもしれない。



離れたほうが、
木吉を殺人者にしなくて済んだのに。


木吉はだんだんと自我を保てなくなって。
完全な化け物になってしまって。

ぼろぼろになっていく木吉を見ていられなくて。
昔二人でいった、誰も通らない川辺にいって。

なあ、憶えてるか、木吉。
昔さあ、お前がここで流されてく猫を助けたんだぜ。
俺はほっとけばいいのに、って言ったのにさ。
結局その猫は死んじまってさ。
お前がぼろぼろ泣いたのを憶えてるよ。

「俺が死んだら、泣いてくれるか?木吉」

そう問いかけても、答えなんて返ってこないとわかっているのに。
もう完全に自我なんてなくて、そこに俺が愛した「木吉鉄平」はいなくて。

目を少し離した瞬間に、ぐちゃりと音を立ててなにかが刺さって。
痛いような、熱いような感覚が身体を襲ってきた。
ぐらりと目の前が揺れる。
木吉に刺されたのだと理解したのは、足元に血だまりができたのが見えたから。

痛くて気持ち悪くて眠ってしまいたくて。
けれど、最後に伝えたい言葉があって。
なんとかして木吉の方をみて。

「愛してる」

身体に力なんてもう入らないけれど。

「だから帰ろう、家に帰ろう」

なんとか手を振り絞って、木吉の頭に手を置いて。

「お前が好きなもん作ってやるよ。なにがいい?」
「ああ、どら焼きが好きなんだったな」
「買って帰って、デザートに食べりゃいい」

頭をなでてやって。
手を動かすのすら、まるで鉛がはいっているかのように重いけれど。

優しい木吉を、残して行くのはつらいけれど。
嗚呼けれど優しい木吉だから。
愛されている木吉だから。

他に受け入れてくれる人がいるのだろうから。
俺はきっと、邪魔だから。

「帰ったら、飯くって、風呂はいって、それから」
「同じ布団で二人くっついて眠って」
「それで、また朝に目覚めて」
「木吉が行きたいっつってた店に行こうぜ」

目の前の木吉の目に光なんてないけれど。
きっと俺のことはおろか、自分のことすらわからないのだろう。
手は攻撃をするための形になっていた。

此処で終わるのはさびしいけれど、それでも。

殺されても、いいと思ったから。

「あいしてるよ てっぺい」

最後に一番綺麗な笑顔で。

「おやすみ」

次に君が目覚めたときは、君のことを受け入れてくれる人に囲まれていますように。


祈るように目を閉じた。




――――――――




目の前のこの人はなにを言っているんだろう

ずっと傍に居た気がする
ずっと俺の傍にいて、ずっとなぐさめていてくれた気がする
けれど、思い出せない
どうして笑っていられるんだろうか

「あいしてるよ てっぺい」

てっぺい?
てっぺいって、誰だ

「おやすみ」

おやすみ?
なんだったっけな、その言葉
嗚呼、眠るときに言う言葉か
その人はその言葉を言って眠ってしまったようだ
けれどここで寝るのはしんどいんじゃないかな
水があるところは寒いから、寝るときは近づかない方がいいって言ってたのは誰だったっけ
分からない
分からないけれど、信じたほうがいいと直感でわかった。

なあ、起きてくれよ

俺には此処が何処かわからないんだ
帰れないんだ
さっき帰ろうって言ったじゃないか
なあ、案内してくれよ
俺はばかだから、帰り方を忘れてしまったよ


―――頭が痛い
声が響く。

(木吉)
(飯できたっつってんだろうが)
(さっさと風呂はいれ)
(…一緒に寝ろだあ?お前いつもベッドにもぐりこんでくんじゃねえか)
(今更だろうが、バァカ)
(甘えすぎだろ、お前)
(ふはっ、仕方ねえから付き合ってやるよ)

誰の声だろうか
さっきまで、聴いていた気がする
頭が痛い
声が響く
その人を知っている筈なのに

ふと前をみた
その人はまだ眠っていた

「…は、なみや」

浮かんだ名前を呟いてみても、その人はなにも反応してくれなかった

頬に冷たいものが流れた
これは一体なんだったっけ
さびしいときに流すんだっけ

…なんで、こんなにも、ぽっかりと穴が開いたようになっているんだろうか

「…起きて、くれよ。なあ、俺の問いに答えてくれないか」

「花宮」

「なあ、花宮」

「置いていかないでくれ」

「はなみや」

涙は次から次へと出てくるのに
その人は、花宮は、いつもなら頭をなでてくれるのに
あれ
いつもって、いつだろうか
わからなくなってきた

「はなみや、おきてくれ」

起こして抱きしめてみても、その人は抱きしめ返してはくれなかった



確かにあったはずなのに
(いつ失ってしまったのか)



―――――――――――――――――
化け物と人間の恋。
報われない話が書いてみたかった


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