朝、起床して一通。
家を出る前に一通。
学校に到着して一通。
部活が始まる前に一通。
部活が終わり、授業が始まるまでの間に一通。
昼休みに一通。
午後の部活が始まる前に一通。
部活終わりに一通。
学校を出るときに一通。
家に到着してすぐ一通。
ご飯の前に一通。
お風呂にはいる前と後に一通ずつ。
就寝前に、二通。

毎日必ずこれだけの量のメールを送信する。
文章はとても簡潔なもの。
今起きました、だとか、今部活が終わりました、だとか。
このメールは一回一回しっかり打ちこみ送信する。
前のものをもう一度送信したりすることはない。
一回一回に、一通一通に、愛をこめて。
文章の最後には必ず「愛しています」と打ち込む。
送信しおえると、とても安心する。
彼から返信が来ることは滅多にない。
それでも送らなければ、自分を保てなくなる。

彼からメールが来たら、それは泊りに来いというサイン。
僕はそれに了承の返事を送るだけ。
泊りの用意をして、彼の家へと赴く。
駅まで行けば必ず彼は迎えに来てくれる。
そして、家で僕をどろどろに甘やかす。
思考ができなくなるくらい、彼のこと以外考えられないくらいに、甘く。
普段の性格からは考えられない位。
お姫様待遇、といったほうがいいのだろうか。
どろどろになるまで愛を注がれて。
僕はただそれに縋るだけで。
その愛をただ受け入れるだけ。
その行為が終わればまるで硝子細工を触るかのように優しく、砂糖菓子を口に含んだように甘く、僕に愛の言葉を言って。
それが嬉しくて、僕も愛の言葉を返して。
そして二人で笑って。
次の日僕は余韻に浸るために学校を休んで。

これが僕の、日常。

学校に行く時は真っ赤に染まったミサンガを左手と右足に1つずつ付ける。
休日はそれに更に首輪を、人と会うときは指輪も一緒に。
ミサンガにも首輪にも指輪にも、彼の愛がこもっている。
居心地のいい、愛が。

これが普通。
これが普通なのだ。
そう、普通。

「これが僕の普通なんですよ、火神君」

光の目を真っすぐに見つめて僕はそう言い放つ。
僕の目はきっと君の目と違い光なんてないのだろう。

「僕の目は今硝子と同じなんですよ。僕の目に光が、硝子が瞳になるのはあの人の前でだけです」
「バスケをしても、好きな本を読んでも、もう駄目みたいなんです」

「僕が今こうやって此処に立っているのは、存在しているのは花宮さんがいるからなんですよ」

「今君が考えていることを当てましょう。【理解ができない】でしょう?理解していただかなくて結構です」
「カントクも、キャプテンも、きっと理解してくれません」
「いや、できないでしょう。君たちは花宮さんを恨んで、憎んでいますから」
「彼は本当は素晴らしい人なのに」
「僕は花宮さんを愛しています、それこそ離れられないほどに」
「誰にも邪魔はさせません。あの人が存在を許してくれているのですから」

ただ淡々と述べる。
火神君は何か言葉を述べたそうだったが、僕は聞く気になれなかった。
あの人を、花宮さんを非難する気だろうから。

僕だって憎くて仕方がなかった。
先輩の足を潰したことも、ラフプレーをすることも。
けれど、一度彼の心の闇に触れてしまったから。
寂しさに気づいてしまったから。
いつの間にかその闇にゆっくりと引きずり込まれて。
もう逃れられなくなっていた。

小さかったはずの蜘蛛の巣はいつの間にか僕自身を包みこめるほど大きくなっていた。
身体だけでなく心にも侵食していった。
蜘蛛の糸は僕の身体を、心を捉えて離さない。
彼から逃げることなんてできない。
逃げる気にすらならない。

せいぜい僕は、綺麗に食べてもらえるように彼に尽くすことにしよう。


とらわれごっこ
(とらえたとらわれたさてどちらが)

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ちょっとよくわからない


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