きっと、恋というには遅すぎた。
 気づいた時には、愛していた。
 憎悪という名の愛情は雪、春になると溶けていった。
 緑の葉だらけだった木に、薄い花が咲く。
 花びらは舞い踊るように散り、そして包み込んだ。


「ふはっ、どういう因縁なんだろうな」
「何がだ? 花宮」
「俺とお前が、こうして一緒にいること」
「不思議と言えば不思議だな」
 気が付けば隣に花宮が居た。
 宿敵であり許しがたい相手であり、だけど放っておけなかった相手。
 きっかけはわからない。
 俺達の間にあった大きな蟠りは、いつしか小さくなっていった。
 別に何かが変わったわけでもなく、俺は俺でしかなかったし花宮は花宮だ。
 少しだけ距離が近づいただけ、それだけ。
 だけどこうして隣に居るのが自然になっていることには、きっと。
 理由なんてなくて、ただ、ただ自然に身を任せた結果だ。
 隣で読書をする花宮を、別に抱きしめるでもなくただ肩を並べて座っているだけの俺。
 だけど、それが暖かく。 蟠りが溶けている理由はきっと、この暖かさ。
 氷のような俺達の因縁は、時が流れてなくなっていく。
 きっとこの先、本当の意味でお互いがお互いといる理由を知る日がくるだろう。
「恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ」
「は?」
「お前との関係を考えていたら思い浮かんだんだよ」
「花宮は日本人じゃなかったのか!?」
「黙れ、煩い。バァカ、天然も行き過ぎるとウゼェ」
 そう言い切ると、花宮はぱたん、と本を閉じて肩に寄りかかってきた。
 疲れていたのだろうか、眠くなったのだろうか。
 すやすやという愛おしい寝息が聞こえる。
「そういや、花宮の言ってた句の意味ってなんなんだろうな」
 普段はあまり使わないインターネットに接続して、検索する。
 現代語訳は――……それを見て、木吉は小さく微笑み。
 気づかれないように、瞼にキスを落とした。
 続けて色々な百人一首を見ていると、ふとある句が目に入る。
 木吉はそれを近くに置いてあった紙に、一緒に置かれていたシャープペンシルでそれを写す。
 そして、花宮の手にそっと握らせた。
 気がついてくれるだろうか。



『名にしおはば 逢坂山の さねかづら
 人にしられで くるよしもがな』

 句を借りて、気持ちを伝える。
 今の言葉じゃなくても、伝える方法はいくらでもある。
 音楽でも、スポーツでも、行動でも。
 古き歴史の言葉で伝えるのも、良いだろう。
「好きだぜ、花宮」
「……おれも……」
 返事に驚く、寝言だったようだ。
 しかし、嬉しいもので、顔がにやけるのがわかる。
 因縁が溶けて、春になって。
 その時に彼は愛される喜びを知るのだろう。
 愛する喜びと、愛される喜びに、祝福の花を咲かせようか。


(アザレアを敷き詰めて眠る)



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hpy!の弥深様より頂きましたほのあま木花です!
花宮がかわいくてもう・・・!
木吉も男前ですし素敵すぎます花宮の読んでいる本になりたい。
弥深様ありがとうございます!これからよろしくお願いします!

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