恋愛とは果実のようなものだ。
甘いものがあればすっぱいもの、苦いものもある。
昔なら全部つまみ食いして、いらないものは捨てていた。
そんな自分はどこにいったのか。
過去を振り返っても意味がないことは理解している。
しかし、昔の自分が今の自分をみたら笑うだろう。
いつの間にか、果実はたったひとつになっていたのだから。



甘いものが好き。
苦い辛いより断然甘い。
なんでもそう。
甘いものにしか目がなくて、他のものは知らない。
そうしてきたし、そうしていくと思っていた。

「人生、なにがあるかわかんないもんだね」

昼飯のパンの袋を開き、口いっぱいに頬張る。
咀嚼していると、隣から声がかかる。

「人生の半分も生きてねえのにいきなりだな」

横をみると変な顔をしている山崎。

「まっさかザキと付き合うなんてなあ」
「俺もびっくりだよつか告ってきたのお前じゃねえか」

紙パックのココアを飲みながらも視線はこちらからそれない。
しかし、こいつほんとココア似合わないな。
違うことを考えると睨まれた。
おお、怖い怖い。

「なんか好きになったんだよね、ザキのこと」
「そうかよ」
「あれザキ照れてるー」
「うっせ悪いか!」
「すぐキレんだからー」
「誰のせいだよ!・・・ったく」

昼飯を食い終えたらしく、袋をくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げ捨てる。
それは綺麗な弧を描きゴミ箱にすとんとはいる。

「お、ナイッシュ」
「ちゃんといれねえと花宮に怒られるだろ」
「捨てにいけばいいじゃん」
「めんどくせえ」

ついでに俺もゴミ箱に投げ入れる。
それはゴミ箱の縁にあたって落ちた。

「あーらら、入らなかった」
「お前なに落としてんだよ。…ったく」

立ち上がってゴミ箱の近くに行き、俺が落としたゴミを拾って捨てる。
ついでに、隣の自販機で何かを購入してきた。

「ほらよ。せめてお前ジュースくらい持ってこいよな」

投げ渡されたのはいつも飲んでいるミルクティー。

「…なにザキ、憶えてたわけ?」
「あ?お前ずっとそれ飲んでるだろ」
「そうだけどさあ」
「パン食うなら飲みもんはいるだろ」
「…変なところで気がきくよねーザキって」
「んだよいらねえなら返せ!」
「いらないなんて言ってないじゃーん」

ストローを突き刺し、ミルクティーを一口、口に含む。

(…あれ)

口に含んだミルクティーは、いつもより甘く感じて。
普段は苦いだとか文句いいつつ飲んでいるものなのに。
たったこれだけのことなのに、少し嬉しくなっている自分がいて。

「俺も案外単純だねえ」

「…はあ?お前のどこが単純なんだよ」
「俺の本質見抜けないなんて…ザキひどいわっ!!」
「んだよその口調!」

ぎゃいぎゃい騒いでいると後ろから花宮の集合の声がかかる。

「やっべ俺まだ飲みきってない」
「置いときゃいいだろ。それより行くぞ!また怒られる!」

俺の手を握ってひっぱるように走るザキ。
たったそれだけが嬉しくて仕方がない。

(…昔の俺が見たら笑うだろうね)

「なに笑ってんだよそんな場合じゃねえぞ!」
「はいはーい本気出して走りますぅー」

歩幅を合わせて走って。
それでもその手は離さなくて、離れなくて。
それがもっと嬉しくて、その手を強く握りしめた。



恋愛とは果実のようなものだ。
甘いものがあればすっぱいもの、苦いものもある。
昔なら全部つまみ食いして、いらないものは捨てていた。
特に、形が悪いものは食べずに捨てていた。
それが今ではどうだろう。
今はこの、熟れきった、潰れかけた果実をゆっくりと食している。
その果実を食べきることを、捨てることを拒む自分がいる。
必ず無くなると知っているけれど。

けれど、それでもいいと思えた。
それはとても、自分を満たしてくれる果実なのだから。





愛という名の潰れた果実
(べたべたにとけそうなほど甘い果実がほしかったのです)




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ザキ原好きです
文章がよくわからないことに


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