荊の道を裸足で歩くの続き



あいつはずっと隣にいてくれた。
あいつが隣にいるから、いつだって立っていられた。
どれほど支えになっていたことか。
中々口には出せないし、伝えられずにいた。
口にしたら離れていくような気がしていた。

そんなのは、建前だ。

男同士の恋愛ということに憶病になっていただけだ。
告げれば気持ち悪いと思われるから。
あいつに嫌われたくないから。
そんなことを言って、せめて相棒として隣にいることの許しを得ただけだ。
俺はあいつがいなければ駄目だが、あいつはそうではない。
あいつは輪の中心にいるのだから。

怖がって言葉を出さない自分が恨めしい。

「俺、お前のこともうわかんねえよ」

隣に居た筈のあいつの姿が、いつの間にか遠くにある。

さようなら
もう会うことはないだろうな

そう告げて、あいつは真っすぐ進んでいく。
俺はそこに立ち止まったまま。
あいつの背中が見えなくなった時、一気に周りが暗くなった。
聴こえてくるのは罵声と雑音。
ノイズがかかった声で聴こえてくる、ただ自分を責めたてる声。
あったはずの基盤はすでにぼろぼろで。

消えろよ

あいつの声がそう言った時に、最後の最後まで耐えていた基盤が音を立てて崩れ落ちた。
まっさかさまに堕ちていく自分の身体。

最後に見えた、あいつの表情は――――――



しんちゃん
みどりま

どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。

ゆっくりと浮上していく感覚。
目を開いたら、何故か膜がはっていて前がうまく見えなかった。

「・・・っ真ちゃん!」

泣きそうな悲痛な声。
視線をずらすと、ぼんやりと顔がみえた。

「真ちゃん!ねえわかる!?わかったら手握って!」

ここまで焦る高尾は初めてだな、とのんきに思いながら、近づけられた手を握る。
自分の身体ばぐっしょりと濡れていた。
汗と、それから涙。
何故泣いているのか理解ができなかった。

「・・・部活中に倒れたんだよ。わかる?」

成る程倒れたのか。
しかし、何故ここまで身体が濡れているのか。
目で問いかけると、高尾は悲しそうに顔を歪める。

「ずっとうなされてたよ・・・悪い夢でもみたの?」

悪い夢。
ピースが当てはまる。
そうか、あれは夢だったのか。
正夢になるかもしれないな、ぼんやりとそう思った。

ぐちゃぐちゃになった顔だけシャツでぬぐう。
タオルで拭きたいが、ないよりはましだろう。
身体はまだ動かない。
もう少し眠ろうとしたとき、高尾が口を開いた。

「なあ、なんで頼ってくれねえの。俺、真ちゃんの役に立ちたいよ」

手を握られる。
高尾はさらに言葉を発する。

「俺はさ、真ちゃんの隣を誰かに渡す気はないよ。離れる気なんてないよ。だからもっと頼ってよ。真ちゃんの憂いは俺がなんとかするからさ。真ちゃんが隣にいないと、俺は息すら満足にできない」

頭を殴られたかのような衝撃が走る。
高尾に俺は必要ないと思っていたから。
俺だけだと思っていたから。
頼ると、お前を信じると、言い出したいのに声がでない。
嗚呼厄介な自分の身体。
ぼろぼろになってしまった。

おまえは、こんなぼろぼろなにんげんのそばにいたいのか。

視線でそう訴えたのがばれたのだろう。
怒るような目付きで、握っている手にさらに力がこもる。

「俺は真ちゃんだからいいの!ぼろぼろなら立ち直れるまで、歩き出せるまで座ればいいんだよ!!たまにはゆっくりしようぜ!俺と歩幅合わせんのも、たまにはいいだろ」

そう言われてしまえば、反論なんてできなくて。

おかしな奴だ。
心の中で呟いて、高尾に笑いかけてやった。
新しい雫が頬を伝う。
けれど、これはさっきとは違う意味を含む。

ゆっくりと目を閉じると、前と同じように闇に包まれる。
しかし、嫌ではなかった。
隣には高尾がいる。
たったそれだけのことで、ここまで変わるなんて。

自分も案外単純だなと呟いて。

そのまま、闇に身を任せた。


「おやすみ真ちゃん。お疲れ様」




劈く悲鳴と落としたナイフ
(叫び声は確かに聞こえました。だからもうナイフはいりません)


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