*ネクロフィリアネタ
*一部不快な表現あり
*閲覧注意。苦手な方はまわれ右




























人里から少し離れた場所に、普通の家よりも少し大きい、しかし豪邸というには些か小さい、そんな家がぽつりと一軒だけあった。
駐車場には小さな黒い車。
周りには錆びたバケツ。
バケツには無造作に鉈や斧といった鈍器がつっこんであった。
先の折れたメス、液体の残った注射器。

ここが葬儀屋だなんて、誰が思うだろうか。

解体の為の道具ばかりが揃えられたこの怪しい場所は、一人の青年の住居だった。

運び込まれてくるものは全て死体。
それも、見るに堪えない状態のものが大半である。
中身がないものであったり、身体の一部が破損していたり。

そういったものを「修繕」するために、この場所は存在している。

今日もまた、何体もの死体が運び込まれる。
青年はそれを、嬉しそうな、楽しそうな顔で見つめる。

今日もまた、仕事が始まる。


***


乱雑に置かれた棺。
その中には全て死体がはいっている。

「さて、始めるか」

うきうきと手袋をはめ、青年―――木吉は作業を開始した。
飛び散った臓器。
押し潰されたように折れている骨。
ちぎれかけている四肢。
普通の人間なら目を背けたくなるようなものを、まるで新しいおもちゃをもらったような、愛しいものをみつけたような瞳でそれを見つめていた。
折れた骨は切り離し、一旦出しておく。
臓器はきれいなものはそのままにし、潰れたものは取り出す。
ぐちゃり、ぐちゅり。
聞くに耐えない音をたてて、臓器は取り出されていく。
取り出した臓器はホルマリンがはいった瓶に一時保存する。
それから、新しく臓器を持ってきて、それを中に縫い付ける。
ちぎれそうな腕や足も、同様に縫い付ける。
臓器を入れ終えたら骨をいれ、最後に腹を縫い、閉じる。
終われば湯で身体を拭いてやり、きれいにして服を着せてやる。
これで、完成。
綺麗にした死体は、元の棺に納められ、遺族に渡される。
引き取り手のないものは木吉の別荘か、警察の方に引き取られる。
木吉に引き取られたものは、別荘の地下室に保管される。
綺麗に着飾り、化粧を施され、美しく棺の中で眠っている死体。
木吉はそれを見ることが何よりも至福であった。

死体は何も言わないし、何もしない。
ただ、美しくそこに鎮座しているだけ。
木吉の性格を、性癖を否定することもない。
散々己の性癖を、性格を、自分自身を否定され続けた木吉にとって、死体という存在は、なくてはならないものだった。

そんな彼が、唯一、愛した人がいる。

「きよし」

扉を少しだけ開け、中を除きこんでいる少女。
彼女こそ、木吉が唯一愛している人間。

「どうしたんだ?ほら、こっちにおいで」

手招きをすると、少女は扉を開けて木吉の傍に来た。

「きよし、おきゃくさま」
「客?ああ、もうそんな時間か。ありがとう、真」

手袋を外し、真と呼ばれた少女の頭を撫でてやる。
少女は嬉しそうに顔をほころばせる。

少女―――花宮真は、魔女狩りが行われた場所にいた、たった一人しかいない生き残りだった。
花宮は死に際の魔女の手をつかんでしまい、力を得てしまった。
すがられてしまった、受け継いでしまった、可哀想な子ども。

木吉は花宮を、それこそ死体よりも愛していた。

花宮は死体をみても怯えないし、それどころか、木吉が修繕した死体をきれいだという。
花宮が見てきた死体はどれも泥人形のような、まるで無機物のようなものばかりだったという。
血は流れまるで大河のように。
内臓は飛び散り、破裂し、血の池を造り。
焼け焦げた身体はぼろぼろと崩れ落ちる。
これらの出来事を、花宮は全て自分の目でみていた。
埋葬されることなく放置された死体。
それが、花宮の死体の印象。

花宮は初めて木吉の仕事をみて、とても不思議そうにしていた。
自分が見てきた死体はこうではないと。
木吉は花宮の頭を撫でて、死体は美しくあるべきだ、と説いた。
木吉の手により美しくなっていく死体。
愛しそうに死体を撫でる木吉。
愛とはこのようなものなのかと、幼い花宮にも理解ができた。
それから、花宮は木吉の仕事を見るようになった。



「客か・・・新しいのでも来たんだろうか」

手袋を脱ぎ捨て、衣類を全て着替え、居間へと足を運ぶ。

「・・・やっかいだな」

「やっかいとは失礼ね」

居間に足を運ぶと、そこには既に客人が待ちくたびれたというように座っていた。

「久しぶりだな、リコ。それに、日向も」
「相変わらずのんきだな、木吉」

客人は昔からの友人、相田リコと日向順平だった。

「警察になったんだろ?おめでとう」
「ありがとう。で、単刀直入に訊くわよ」

※※※という人、知らない?

リコは真剣な表情で木吉を見つめる。
日向も険しい顔で木吉を見つめる。

「・・・それは」
「もちろん、死体よ。性別は女性。年齢は・・・私たちくらいかしら」
「死んでると決めつけるのはよくねえんだけどな」

ため息をこぼし、さらに顔を強張らせる日向。

「これが生前の写真。見覚えは?」

渡された一枚の写真には、とてもきれいな女性が写っていた。

「んー・・・ちょっと待っていてくれ」

木吉は立ち上がると、本棚から一冊の本を取り出した。
ぱらぱらとページをめくっていく。
そこに記されていたものは、死後の写真、名前、死んだ場所、死んだと思われる時間。
全て、木吉のコレクションだった。

「いないみたいだから、知らないなあ」
「・・・いない?」
「ああ。生きているかもしれんし、見つかりにくいところにあるのかもしれん。あとは、俺に頼まずとも大丈夫なものだったかだ」
「なるほど・・・生きてりゃいいがな」
「希望はあるのね」

ぱたん。
本を閉じる。
表紙はずいぶんと日に焼けて、ぼろぼろになっていた。

「なんで、探しているんだ?」

ふと疑問に思ったことを口にする。

「・・・この子、魔女みたいなの」
「魔女狩りにあう前に、保護しようって話だが・・・行方不明になってんだよ」
「死んでいたら俺のところに死体があると」
「そういうこった」

頭をがしがしとかき、かったるそうに答える。
相当疲れているのだろう。

「もし死体がきたら、連絡するよ」
「そうしてくれると助かるわ」
「おう、頼んだ」

邪魔してわりいな。
またゆっくり来るわ。
そういって2人同時に立ち上がり、帰路についた。

机の上に残された、一枚の写真。
木吉はそれを手に取り、まじまじと見つめる。

「・・・随分と綺麗に撮ってもらったんだな」

なあ、※※※?

そう呟けば、首に抱きつくように腕が回される。

「探されてるぞ」
「知るかよ」
「いかないのか」
「玩具になる人生はごめんだね」

彼女は楽しそうに笑う。

「それに、お前が拾ったんだ。最後まで責任とれよ」
「わかっているさ。誰にも渡す気はない」
「それでいい。・・・俺もまさか、お前みたいなのに拾われるとは思わなかったよ」
「俺もだよ。しかし、今はお前がいないなんて考えられない」
「ふはっ!よく言うぜ」
「お前が居ればそれでいい」
「へえ?じゃあ、死体と俺、どっちが好き?」
「勿論お前だよ―――花宮」

そういうと満足したらしい花宮は、木吉に正面から抱きつけるよう、身体を移動させる。
木吉は花宮を抱き寄せ、触れるだけのキスを落とす。

「愛してるよ、木吉!」
「俺も、死体よりも愛してるよ、花宮」



屍と葬儀屋と魔女
(イカれた葬儀屋と狂った魔女の物語)


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