びりびり

破られた、紙。
それはとても可愛らしい封筒にはいっていた。

びりびり

封筒も、手紙も。
原型がないほどにぐちゃぐちゃで。
それを床に散らばめては、大きいものを拾い上げ、また破る。

「花宮」

ぐちゃぐちゃになった手紙だったそれを、花宮の手から奪う。

「なんだよ」
「破ってもいいが、ゴミはゴミ箱に捨てろよ?床にすてるのはよくない」

花宮を自分の膝元に座らせ、ゴミを拾って、ゴミ箱に捨てる。
花宮はその動作をじっと見ていた。

「…木吉さあ」

座りなおして抱き寄せたところで、花宮が口を開いた。

「なんだ?」
「これ、お前宛てのラブレターってわかってんのか?」

これ、とゴミ箱を指さす。
先ほどまで破っていたあれはどうやら俺宛てのラブレターらしい。

「花宮は、読んだのか?」
「あ?…ああ、ざーっとな。お前への愛がひたすらこめてあったけど?」
「そうか」

その回答はどうやら気に召さなかったらしい。
すこしむくれたような顔をする。
その姿が、とても可愛らしい。

「俺がそのラブレター破ったってわかってんのか?」

もう一枚手に取り、また封を開ける。
読んでまた破るのだろう。

「分かっているが」
「ぐちゃぐちゃに、原型わかんねえくらいにしてもいいわけ?」
「構わん」

ふうん、とまた手紙に目を向ける。
ちらりとその手紙を見る。
そこには女の子らしい丸っこい可愛らしい文字がずらりと並んでいた。

すきです
ずっと前から気になっていました
やさしいきみがすきです
つきあってください

普通の健全な高校生男子なら、ときめくのであろうこの文章。
しかし、俺にはただの文字にしかみえなかった。

「…あのさあ。もし、俺がお前にラブレター送ったら、お前は俺の目の前で破くわけ?」

まあありえねえけど、と付け加えて。

「まさか。何回も読んで大事にしまっておくさ」
「俺が今持ってるこれも、ラブレターだぜ?」

ひらひら。
目の前でピンク色の封筒が揺れる。
宛先は俺。
差出人の名前は書いてあるが、誰か分からない。

「どうでもいいさ。…お前のストレス解消になるなら破ればいい」
「…木吉ってさあ、俺より最低なときあるよな」

楽しそうに笑い、その封筒をまた破りだす。
今回はくしゃくしゃに丸めず、縦に、横に、ばらばらになるように破いていく。
時折断片的に読める文字を読んでは、また破る。

「これくれた子、可哀想だよなぁ」
「…好意は嬉しいが、こういった風に貰っても俺はなんとも思わない」
「へえ?手渡しのほうがいいって?下駄箱にラブレターのが王道だと思うけどな」
「手渡しの方がこう…ぐっとくるだろ」
「受け取るの面倒じゃねえか」
「それもそうだな。まあ、もう俺には関係ないさ」

花宮の手からラブレターだったそれを取り、ゴミ箱へ捨てる。
ばらばらになったそれをくれた女の子がみたらどう思うだろうか。
最低だと、泣きわめくのだろうか。

「俺は花宮が居ればそれでいい」
「…恥ずかしい奴だな、お前。つーか、彼女いるっつったらラブレター減るんじゃねえの」
「それもそうだな」

お前馬鹿だろ、と花宮は俺に抱きついて笑う。
頭をなでると、くすぐってえよと言いながらくすくすと笑う。
これがあの悪童だなんて誰が思うだろうか。
他の奴に見せる気なんて、更々ないが。

「しかしだな…花宮は男だから彼女ではないだろう」
「恋人いるって言えばいいだけだろ」

「そうだな…しかし、ラブレターの量が減るのは困るな」

「…はあ?なにお前意味わかんねえ」

顔をあげたと思ったら、俺の肩に顔をうずめて足を叩いてくる。
これは拗ねたときの癖だ。
俺が失言して拗ねると、足をひたすら叩いてくる。
膝のことは気にかけているらしく、膝を叩いてはこないし、叩いたとしても軽いものだ。
一々可愛い。
やる動作全てが可愛くみえてくるぐらいだから、きっと俺はもう相当重症なのだろう。

ゴミ箱から、先ほど捨てたラブレターだったそれを取り出す。

「こうやって、嫉妬する花宮が見れなくなるだろう?」

それを、今度は自分の手で破る。
元々小さかったそれはさらに小さくなる。

「木吉…これ渡してくる奴が可哀想だろ」
「花宮の口から可哀想なんて言葉がでてくるとはな」
「うっせえ」
「俺が手渡しでラブレター受け取ったら泣くだろ?」
「は?泣く訳ねえだろバァカ」
「この前泣いてたじゃないか。受け取るなよばかって言ったのは花宮だろー?」
「言ってねえしつか忘れろよクソ」
「花宮はかわいいな」
「かわいくねえよ」

抱きしめたまま、頭をなでる。
どうやら相当拗ねたようで、足を叩く手に力がこもっている。
やれやれ、とため息を一つ。

「機嫌なおせってーなー?」

ひたすら頭を撫でてやり、抱きしめる腕に少しだけ力を込める。
花宮は顔をうずめたまま、上を向く気配がない。

どうすれば上を向くだろうと考えていた瞬間、花宮の口からとんでもない爆弾が投下された。

「…きす、してくれたら許してやるよ」

ああ、なんて可愛らしい。
顔をあげる花宮の唇にキスを一つ。
もう一度近づけ、ゆっくり、深く。

もう一枚あったらしいラブレターを拾い上げ、くしゃくしゃにして捨てる。

―――宛名に書いてあった「花宮真様」という文字は、みなかったことにした。





残骸ラブレター。
(破いた動機は嫉妬なのか独占なのか。それとも、依存?)



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ラブレター破る花宮が書きたかった
原案はssに

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