*幸せをなくした王子様の続き
*木→←花

青年は眠り続ける友人の―――幼なじみのために、いつ目覚めてもいいように、彼の衣類や本などを鞄に詰めていた。
本人に許可をとることは不可能なため、彼の両親に頼み、部屋に入れてもらった。
彼の両親は多忙のため、この申し出を大層歓迎してくれた。

彼の部屋はとても簡素だった。
生活感がない。
一言で表すならこれがぴったりだった。

無言で衣類を詰め込んでいく。
財布と携帯は彼が所持していたようで、部屋にはなかった。
身分証明ができるものは所持していなかったようなので、必要だろうと思い鞄に詰め込んでいく。

あらかた詰め終わったとき、ふと机の引き出しに目がいった。

不自然に、開いているのだ。

彼の両親は彼の部屋に入っていないと言っていたので、きっと眠りにつく前に彼がなんらかの動作をしたのだろう。

引き出しに手をかけ、ゆっくりと開ける。

そこには、よく見かける茶色の封筒がおいてあった。
宛先もなにも書かれていない封筒。
どうやら中身ははいっているらしい。
ここにしまっておくほど大切なものなのかと思い、封筒を手にとる。
わずかな重さがある封筒。
してはいけないと思いつつも、あの彼が大切にしている手紙がどのようなものなのかがとても気になった。
封筒に手をかけ、ゆっくりと破き、中身を取り出す。
三枚にもわたる手紙。

その手紙を読んだ瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

そして、全て悟った。
彼が眠りについた理由を。
―――愛されたいという叫びを。


**


「・・・花宮」

今日もまた病室を訪ねる。
花宮は眠り続けている。

これが日常となりつつあることが、俺にはつらかった。

早く目覚めてほしいと思う反面、目覚めなければずっと会える、そう思う自分がいて。
そんな自分を殴りたい気分だった。

近くの椅子に腰をかける。
ずっしりと沈む身体。
眠る花宮を見るたびに、後悔の念が襲ってくる。
自分を責めたところで何も変わらないと理解しているのに。

幸せそうに眠る花宮とは反対に、俺は日に日に沈んでいった。
学校ではなんとか隠しているが、日向やリコにはばれているだろう。
それでも、何も言わないでいてくれるあいつらに感謝する。


花宮の髪を撫でる。
とても美しく、艶やかな髪。
起きているときに触ればきっとぶたれるだろうな、と苦笑した。

声が、聞きたい。

罵声でもなんでもいいから、花宮の声が聞きたかった。
相当末期だな、と1人ため息をつき、花宮の髪から手をのけた。

「・・・いつ目覚めるんだ?」

もう、待てないよ。

苦しみを孕んだ言葉は、いつものように静寂にとけた。


***


「・・・木吉」

面会を切り上げ、帰ろうと足を進めた矢先に、誰かに声をかけられた。
振り向くと、そこには古橋がいた。

「古橋!今から見舞いか?」
「ああ。お前はもういいのか」
「ずいぶん長い時間いたみたいだし、あまり遅くなると心配されるからさ」
「そうか」

ふと、彼の荷物に目がいった。
まるで泊まるかのような大きな鞄。
彼の性格上そんなことはしないだろうから、きっと花宮の荷物なのだろう。

「たくさん持ってきたんだな」
「衣類は多いほうがいいだろう」
「確かに」

納得したところで別れを切り出そうとした。
しかし、それは叶わなかった。

「・・・木吉、これを」

古橋が俺に差し出してきたのは、茶色の封筒だった。

「これは・・・?」
「・・・読めばわかる。これはお前が持っている方がいいだろう」

古橋の目は真剣だった。
この封筒はとても重要なものなのだろう。

「わかった、受け取ろう」

封筒を受け取り、自分の鞄にしまう。

「帰ってから1人でみてくれ。木吉以外には内容を知られたくないんだ」
「そんなに重要なのか。・・・帰ってすぐ読むよ」
「頼んだ」

それだけいうと、古橋はエレベーターに乗り込んだ。
その姿を見送り、俺は帰路につく。

この手紙がどれほど重要かを、数分後存分に知ることになる。


***


家について、ばあちゃんたちと普段通りに食事をして、風呂にはいって。
あがったあとは寝るまで自分1人の時間。
ばあちゃんたちはもう既に寝ているため、今起きているのは俺だけだった。

鞄をあさり、受け取った封筒を取り出す。
どうやら封はすでに切られているみたいだった。
きっと古橋が開けたのだろう。
中から便箋を取り出す。
それは三枚もあった。
一枚目と思われる便箋を開き、目を通す。

その内容に、俺は便箋を握りしめた。

しわくちゃになるのも構わずに、握る。
手が震える。
目の前が滲んでいく。
三枚にもわたるそれは、いわゆるラブレターというもので。

「花宮・・・っ」

自分がどれだけ思われていたか、愛されていたかを初めて知った。
好きだと自覚したときにすぐにでも告白しにいけばよかった。
きっと花宮はこの手紙を誰にも見せず、ずっと隠しておくつもりだったのだろう。
悪童として、最後まで悪役になりきるはずだったのだろう。
この手紙は悪童ではなく、花宮真として書いたのだろう。
どんな思いでこれだけの言葉を詰め込んだのか。
今までどれだけのものを抱え込んでいたのだろう。
考えただけで胸が張り裂けそうだった。

「気づいてやれなくて、悪かった・・・花宮・・・!」

涙は溢れるばかりで止まらなかった。

花宮を現実に引き留める術は自分だったのだと、初めて気がついた。

『愛しているよ。
お前の足を壊したこと、今では後悔しているんだ。
・・・今まで俺がお前にしたことを許さないでほしい。
許される行為ではないから。
けれど、せめて・・・思うことは、夢の中で会うことは許してほしい。』



幸せ行きの切符
(落としてしまった愚か者)


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