ぷすり

それは小さな棘だった。
とても小さいものだから、気づかないふりをした。

ちくり

小さな棘は痛みを増す。
それでもまだ小さいから、痛くないふりをした。

慣れている、気にするな、そう自分に言い聞かせる。
普段通りにしていればいい。

棘が段々大きくなっていることも、気づかないふりをする。


通りかかったときに聞こえた言葉。
あの場所には高尾とクラスメイトがいた。

「高尾ってさ、よく緑間みたいな奴と居れるよな」
「リアカーお前しかひいてねえじゃん」
「あいつなんかと付き合えるとか尊敬するわ」

ぎゃはは、と笑い声が反響する。

慣れているのだから気にするなと自分に言い聞かせたいのに、できない。
高尾がいたから。
高尾に疎ましく思われている、そう考えてしまう。
否定する術がなに一つとしてないからだ。

高尾はいつも好きという言葉だったり、なにかをしてくれているのに、自分は何も返していない。
この状態で、ずっと好きでいてくれるはずがない。
理解しているのに、染み付いたものはなかなかとれない。
辛辣なことを言いたくないのに。
素直に伝えたいのに。
自分は、弱虫だ。

足早に、しかしばれないようにその場から動く。
もう何も聞きたくなかった。

いつの間にか、棘は抜けないほど深く刺さっていた。


じくじくと痛むそれを隠すように、また普段通りの生活をする。

しかし、以前は気にならなかった他人の目がやけに気になった。

他人が怖い。
自分が気持ち悪い。

存在すら許されない、ガラクタ。

震える左手を握る。
テーピングをしているのに、血が滲んでいた。

高尾がこちらを見ていることに、気づけなかった。


***


テーピングをほどき、血の溢れている部分を口に含む。
鉄の味が口に広がる。
ざっくりと切れてしまっていた。
替えのテーピングを探すが、見当たらない。
ロッカーの中にいれていたが、どうやら使い切っていたようだ。
巻き直してもよかったが、血がにじんでいるためバレてしまうだろう。

仕方ない、絆創膏でごまかすか。

絆創膏をキツく巻く。
血が止まればそれでよかった。
普段ならもっと指を気にするのに、なぜか今はそんな気になれなかった。
不恰好に貼られた絆創膏。
それを満足そうに見て、教室に戻ろうとした。

「真ちゃん・・・?」

高尾が、いた。

「どうした、高尾」
「その指・・・」

高尾の視線は左手から離れない。

「・・・切れただけだ。お前が気にすることではないのだよ」
「気にするに決まってるだろ。・・・真ちゃんさあ、最近変だよ。どうしたんだよ」

俺が、変?

「どうもしていないのだよ。高尾こそ、どうかしたのか」

そう答えれば、高尾は泣きそうな、怒っているような、そんな表情になった。

「そんなことより、もうすぐ授業が始まるのだよ。早く戻るぞ」

高尾よりも先に歩き、教室に向かう。

「真ちゃん・・・」

情けない声をだして、とぼとぼと歩き出す高尾。
その姿を横目でみる。

ずきずき

棘が痛む。
理由がわからない。
大きく育った棘が、自分を侵略していく。

気持ち悪い。

吐き捨てるように呟いて、席に座る。
高尾は未だに不満そうだった。
原因は、わからない。

じくじく痛む自分の左手をみる。
絆創膏にも、血が滲んでいた。
また貼りかえなければならない。
授業を聞き流し、左手を見つめていた。


そうやって、自分で自分を傷つけていることに気付かずに。
棘はますます育っていった。
壊れた音に、気付けなかった。



嘘と棘と自分の心
(不安定な基盤 壊したのは自分)


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