*幸せを掴んだお姫様の続き
*木→花


あの日から君はかわらないまま。



その日はゆったりとした1日だった。
いつも通りに学校に向かい、バスケをして、授業を受けて、またバスケをして。
変わったことは学校の都合で途中で切り上げろと言われたことぐらいで。
動き足りない俺たちは近くのストバス場でしよう、ということになって。
伊月は用事があるらしく、あとから合流する、といって帰っていった。
見送って近くのストバス場で、また練習をして。
1on1をしていたはずが、ミニゲームになっていたり。
たまにはこんなのも悪くないな、そう思ったときだった。

日向の携帯が震える。
どうやら伊月のようだった。

「・・・んだよ伊月、目当てのもんは買えたのか?」
『いや、それどころじゃなかった』
「はあ?」

周りもなんだなんだ、とざわつき始める。

「日向、どうした?」
「知らねえよ、伊月にきけ」
『木吉、近くにいるのか?』
「ん?ああ。どうした?」
『・・・言いにくい、んだけどさ』

次の言葉をきいた瞬間、全身から血の気がひいたような気がした。


『花宮が倒れて・・・意識が戻らないみたいなんだ』



***


俺は花宮のことが好きだ。
ラフプレーを仕掛けるし、バスケに不誠実な、悪童。
これは事実だ。
実際に俺も膝をやられた。
しかし、自分の信念を持ち続ける姿や、なんだかんだいって仲間思いなことを知るたびに、あいつに、花宮に近づきたいと思うようになった。
日に日に募るこの感情。
わからないまま過ごすのが嫌で、リコに相談したら、すごく困ったような、そんな感じの顔で、
「それ、多分恋、よ」
と教えてくれた。

恋、か。

その言葉がすとん、と胸の中に落ちた。
納得できたのだ。
悪童に恋なんて趣味悪いわね、とまで言われてしまった。

嫌われているとわかっている相手に、俺は恋をした。

***


「・・・っ木吉!」

声をかけられ、今自分はストバス場にいるのだと思い出した。

「・・・悪い」
「いや、いいけどよ。・・・花宮んとこ、行くか?」
「いいのか?」
「行きてえんだろ?」
「・・・ああ」

「今日は解散、自主練する子もほどほどにね!」
リコの号令がかかり、解散しはじめる。
俺はゆっくりと鞄を持つ。
時刻は午後8時になっていた。


***


全部白なんじゃないかと錯覚しそうな部屋。
その部屋のベッドで、花宮は眠っていた。
幸せそうだった。

医師の話によると、ただ眠っているだけだという。
身体に傷がまったくなく、また、薬物を使用していた形跡もないとのこと。
肉体的なものではないとなると、精神的なものとしか考えられないという。


ただひたすら眠り続ける花宮。
今、何をみているんだろう。
現実でなにがあったのか。答えが欲しかった。
しかし、答えられる者がいない。

「・・・花宮」

発した言葉は、静寂に溶けた。

責めても無駄だということは理解しているのに、自分を責めずにはいられなかった。

声が聞きたい。
ばかと罵られても構わない。
花宮の声が聞きたかった。

「・・・・・・」

面会時間が終わる。
頭では理解したのに、身体を動かすことができなかった。

「・・・は、なみや」

懺悔をするかのような声。
もう、何も届かない。


幸せをなくした王子様
(伸ばした手は届かない)

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