冷めきった心は温もることなんてなかった。
まるで融けない氷があるような、融けてしまったら溢れるような。

周りに認められたい

自分をみてもらいたい

最初はそれだけだった。
自分を認めてほしかった。

最初は努力した。
勉強でも、スポーツでも。
成績が上がれば上がるほど、できればできるほど褒めてもらえた。
もっと上を目指せば、もっと褒めてもらえると思っていた。

それが間違いだなんて思っていなかったし、思いたくなかった。


勉強して成績があがるほど先生は俺を褒めた。
クラスメイトはすごいと言ったけど、それは畏怖でもあった。
スポーツをして大会にでると近所の人はすごいと言った。
不正をしているのではないかという噂を流されるようになった。


努力すればするほど、周りから孤立していった。



なにが努力をすれば報われるだ。
した結果がこれだというのに。

それからだった。
努力している奴を潰したいと思ったのは。

自分が叶わなかったことが叶った人が妬ましいわけじゃない。
ただ、自分がみじめに思えただけだ。


あいつの膝を壊したのも、自分に持っていないものを持っていたから、それが羨ましくて、まぶしかったから。

壊したあとに後悔した。
嗚呼これでは、何も変わらない、と。

結局は自己満足なだけだったのだと。
自分の仲間を作りたかっただけなのだと。

それでも辞めることはできなかった。
まるで麻薬のように。




WC予選に敗退した後から、自分の左手には赤い傷ができた。
自分でつけた、真っ赤な傷。
それは日に日に増えていった。
辞めろと言われてもやめられない。
それこそラフプレーよりも。
一種の精神安定剤のようなものだった。


・・・あいつに発見されるまでは。


適当に乗った電車で、地名を確認せずに降りた。
ふらふらと辺りを探索する。
駅周辺はにぎやかで、近くに商店街もあるみたいだ。
どこに行くでもなくただ足を動かしていたが、ちり、という痛みが走った。
腕をみると、包帯が外れかけていて、赤い傷がちらちらと見えていた。
先程の痛みは服と傷が触れたからのようだ。
巻き直すにも、包帯を固定するものがない。

仕方ねえな。

ぽつりと呟き、乱暴に包帯を外したときだった。

「花宮、お前・・・」

「・・・木吉」

すぐ傍に、木吉が立っていた。

「その傷は誰がしたんだ・・・?」

まるで自分がされたような、とても傷ついたような、そんな顔をしていた。

「・・・自分でやる以外になにがあんだよ」
「なんで」
「どうでもいいだろ」
「いいわけないだろ」
「俺がなにしようがお前には関係ねえだろ」

いらいらする。
この左手も、木吉にも。

「花宮は死ぬ気、なのか」
「・・・んなわけねえだろバァカ」
「なら、それ、やめろ」
「死ぬ気ならしてもいいのかよ」
「よくないな。自分を傷つけるのはよくない。勿論他人もだが」
「なんでだよ」

「花宮が傷ついているのはみたくない。俺、お前のこと、好きだ」

真剣な表情。

「花宮だって、俺のこと好きだろ?」
「・・・っえ」

ああそうだよ好きだよ、なんて言えなかった。
かといって、嫌いだとも言えなかった。

「・・・今まで、がんばってたんだろ。大変だったな」
いきなり腕を掴まれて、ひっぱられる。
木吉の顔が、身体が、近付く。

「・・・誰にも言えなかったことがあるんだろ?言いにくいんだろ?だからこうやって、自分を傷つけてるんだろ」

木吉は俺の左手を握り、傷にキスを落とす。

「頼れよ。大丈夫だから。・・・痛みが癒えるまで、癒えたって、傍にいるから」
「・・・う、そだ」
「俺が嘘をつくとでも?」
「・・・うそ、だろ」
「花宮、嘘じゃない」
「うそだ・・・っ」

いつの間にか涙がこぼれていた。
ぼろぼろと落ちるそれはとまることを知らなくて。
何度もうそだと言い涙をながし続ける俺を、木吉はどこか安心したような顔で、ただ俺を抱きしめていた。

***

「・・・落ち着いた、か?」

結局涙がとまるまでに随分と時間がかかってしまい、あたりはもう真っ暗だった。

「・・・うるせえ、バァカ」

そういうと、木吉は笑って頭を撫でてきた。

「・・・で、だ。・・・花宮、俺と付き合ってくれないか」

いきなり雰囲気を変えてきた。
空気が読めないことは変わらないらしい。

答えなんて、知っているくせに。
意地が悪い奴だ。
でもそれに嫌な気がしないあたり、相当ほだされたのだろう。

「・・・仕方ねえから、付き合ってやるよ」

名前を呼んでやろうと思ったが、それは口の中に消えた。



堤防、決壊。
(大きな大きな塊を、あなたが壊してくれた)


―――――――――――――――――
リスカする花宮がかきたかった
それだけです

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